ニューズウィーク日本版の2006ー3.22号のカバーストーリーに注意を惹かれた。
「ネットはテレビを殺すのか」
その見出しと同じ論題でディベートを行うので東京に来ないかと松本道弘氏から電話があった。次の日だという。
急な連絡だが行く事に決めた。
松本道弘氏はディベート教育の世界で有名である。
プロの通訳者であり、元NHKテレビ上級英会話講師。
ゲストを招き、インタビューをするという30年ほど昔の番組は今見てもレベルが高い。ディベートの手法を用いて、それまでの「お話を伺う」というスタイルではなく、「悪魔の代弁人 play the devil's advocate」というあえて相手に反論するやり方で番組を盛り上げた。
が、それが制作側の反感を招く。悪魔の代弁人は失礼だというのがその理由だった。しかし反論される事に慣れている外国人ゲストは楽しんでいた様子なので、手法としては間違っていなかった。後年、松本氏はアメリカの有名女性インタビュアーに自分の番組を見せ感想を聞いたところ、一言、 "Bland(面白みがない)" という返事だった。NHKが勝手にハラハラしていただけで、もう少し強烈なツッコミをゲストに入れても良かったのかもしれない。
そういう事もあり、松本氏は番組を降板した。
未だに番組のファンがいるが、個人的に得た情報によるとNHKのアーカイブからその記録は消されているらしい。
以後、彼はディベート教育に力を注いでいる。氏の薫陶を受けた人間は多い。
そのような人物の前でディベートを披露するのは緊張する。何度か機会があったが、慣れない。
今回は否定側に立った。「ネットはテレビを殺さない」と主張する方だ。これも急に決まった。一緒にコーヒーを飲んでくつろいでいる最中、松本氏に「君の意見ではどっちなの」と聞かれたので「殺さないと思います」と言い、理由を説明した。
「じゃあ、否定に立ちなさい」
20秒ほどで決まった。
ネットがテレビや既存メディアを殺すという主張には様々な根拠がある。一つ挙げれば、ネットにはテレビが決して放送しない事があふれている。例えば某首相とヤクザとの関係はよく知られている事なのに、これはテレビでは流れない。価値のある情報は今ではネットにあるという考え方である。また、情報の精度に関するものもある。テレビのスクープ報道の間違いをネットが指摘するという事もあった(まあ、これに関しては反対意見が多そうである)。
しかし、それはあくまでも情報に限った話。テレビは情報の他に、娯楽や教育番組をお茶の間に届ける。
それもインターネット経由で見れるという反論が聞こえてきそうだ。確かにそうだろう。しかしそれは元々テレビのコンテンツである。ネットはそれを届けているに過ぎない。それは古い物の新しい応用になっているだけではないだろうか。構図としては上流にテレビがあり、下流にネットがあるように見える。ネットはテレビを殺すどころか、むしろ生かしているようだ。
個人的には、ネットとテレビは役割が違うので、どちらかがどちらかを駆逐するという事ではなく、棲み分けが起きるのではないかと思う。例えば、大きな絵をテレビで得て、細かい意見やアンチテーゼをネットで得るというような物を想像している。
ディベートが終わった後、Japan Information Network (JIN)の朝吹誠社長のお話を聞く事ができた。 JIN は日本におけるネット放送の先駆けである(JINのURLは
http://global-jin.com/)。
朝吹氏はネットがテレビを殺すかどうかの点から話を始めが、彼も「ネットはテレビを生かす」と言っていたのが印象的だった。

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