その夜。
あたしは緊張しながら、ベッドのふとんの中にもぐりこんでいる。
お風呂に入ってるときも、なんだか時計が気になって落ち着かなかった。大好きなアイドルのKAT−TUNがテレビに出ていても、いつもみたいに心がときめくことはなかった。
そのあたしの様子は、やっぱり周りから見てもおかしかったようで、決まり文句のように「宿題・勉強」と言うお母さんも、今日は心配そうにあたしに「どうしたの?」と声をかけてきた。
「うん? なんでもないよ」
あたしは気もそぞろに、自分の部屋に向かうのだった。
ふとんに入ってケータイをにぎるあたしの手のひらが軽く汗ばんでいる。
なかなかネットへ接続できなかった。
2チャルームへ行きたいが、行けない。
RYOと話したいけど、何を話せばいいんだろう。
時間がコツコツと過ぎていく。そろそろネットにRYOが来る時間だ。
胸がどきどきする。口が渇く。無意識のうちに、舌でくちびるをチロチロと舐め、湿らせていた。
でも、今日RYOに会えなくて時間がたてば、今よりもっと話しにくくなってしまうだろう。そしたらRYOは、2チャルームへこなくなっているかもしれない・・。
RYOと会えなくなる!
そう思うと、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。息が苦しくなる。
イヤだ! RYOともう会えないなんて・・。
あたしは思い切って、2チャルームへネット接続した。
「RYO、まってる」
チャットの待機メッセージを出す。
ドキドキと、耳に聞こえそうなほど、鼓動が高鳴っている。緊張と期待。
その時。
「こん・・のぞみ」
2チャルームに誰かが入室してきた。
「あ!!」
あたしは思わず声をあげてしまった。
RYOだ。RYOがあたしを訪ねてきてくれたのだ。
うれしかった。
RYOと、また会えたことが素直にうれしかった。
「こん、RYO」
あたしはあわててチャットに文字を打ち込む。
しばらくの沈黙。
RYOから返答がない。
あたしはとまどっている。
お互いにぎごちない雰囲気だ。
何から話したらいいんだろう。やっぱり怒っているのかな・・? RYOはあたしのこと、キライになったんだろうか。
「昨日はごめん・・」
あたしは沈黙に耐え切れず、発言した。
少しの間。
「別に、気にしてないよ」
RYOの返答がやっときた。
「よかった! あたしほっとしたよ。RYOが怒ってるんじゃないかって」
「別に、もういいって」
昨日からの胸のつっかえがやっととれた気がした。あたしはほっとしていた。
「ホント、ごめんね。もっとRYOのこと、考えてあげればよかったのに」
沈んでいた気持ちが一気に浮上し、あたしは、有頂天になっていた。うれしさのあまり、RYOの気持ちが見えていなかった。
「そういうのが、うぜえんだ」
「え?」
あたしは自分の目を疑った。発言の意味が、わからなかったのだ。
改めてRYOの発言を読んだあたしは、RYOが本当には、自分のことを許していたわけではないことを悟った。
あたしの頭の中が真っ白になる。
「俺のこと、よく知りもしないくせに、わかったようなこと言うな」
あたしの浮かれていた気持ちが、一瞬にして凍り付いた。
そうなんだ・・。RYOが気にしてないはずがなかったのだ・・。
「ご、ごめん・・なさい・・」
あたしは、どうしたらいいのかわからず、とっさにまた謝った。
「やっぱりのぞみも、ただのヒトなんだな。俺、のぞみは、他のやつとはちがうって思ってたのに」
RYOの一言ひとことが、あたしの胸に突き刺さる。
あたしはまた軽はずみなことを言ってRYOを傷つけてしまった。
「ごめんね、RYO。ごめん。でも、あたし、どうしたらRYOが許してくれるか、本当にわからないの」
あたしは必死でケータイに文字を打ち込む。
しばらくの沈黙。
「本当に、昨日からずっと悩んでて、寝れなくて、RYOのことばっか考えてるんだよ? RYOのために、あたし、何ができるんだろって。RYOのために、あたし、何かしたいの」
あたしのRYOへの想いが、どうか、届きますように・・。あたしは、祈るように、チャットの画面を見てる。
また、沈黙。
RYOの反応は、ない。
あたしにはそれが、たまらなく長く、つらく思えた。
RYOは、まだ、このチャットルームにいてくれているんだろうか。あたしの発言を読んでいてくれるんだろうか。あたしの気持ちを・・。
ベッドのふとんの中で、あたしはケータイの画面をじっと見つめる。
早く、RYOの言葉が見たい。
「・・俺ンち、父親いねーんだ」
唐突に、RYOの発言がアップされた。
その言葉の意味を理解するまでに、またあたしは少し時間がかかった。

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