秋田に帰省した。二夜、続けて川反(かわばた・東北髄一の歓楽街)を飲み歩いた。
二日目は、ふと思い立って友人と飲むことになった。最後に会ったのは、いつだったか。二人とも、思い出せなかった。
「朝日食堂」で、杯を重ねた。昭和初期をイメージした、おれ好みの店だ。相手に合わせてカクテルを飲む。甘くて、飲んだ気がしない。角瓶を頼む。
これだ。これじゃなきゃだめだ。水割りのようなペースでロックを空けていく。
酔ったのか、急に相手は喋り出す。泣いている。帰ると言い出す。
手がつけられない。あえて詮索もしない。旭川の黒い水面を見ながら歩いていると、
「旭タクシーが好きなの。あ、旭タクシーだ」と意味不明のことを口走りながらタクシーで帰っていった。勝手にしゃべって勝手に泣いて勝手に帰っていった。勝手にしやがれだ。
川反から少し外れたJAZZ BAR‘CAT WALK’に歩いて行く。幼馴染みの友人を誘おうと思うが、最近結婚したため気がひけて止めた。
地下に続く階段を降りると、生演奏のJAZZが聴こえてくる。ライブが入っているらしい。カウンターでハーパーのロック。生演奏はいい。大音響に圧倒されて、静けさすら感じられた。俺の中にわだかまるものに、寡黙が付与される。透き通るようなトランペットの高音は、ともすれば或る痛みに向かって浮遊しようとする俺を釘付けにしてくれた。
演奏が終わり、地上に出る。酔いは、ひとごとのように、どこか遠くにある。
「朝まで飲まねば」
ひさびさに「限りなく透明に近いブルー」が見たくなり、それまで飲むと決めた。
また川反に向かう。せっかく振り払われた思念が、頭をもたげてくる。ラーメン屋に入り、食いたくもないラーメンを無理やり飲みこむ。ウィスキーばかり飲んでいると、日本酒は水のようだ。
やっと酔いがまわってきた。川反でいちばん好きな店に入る。
「カリンカ」
70年代は学生の溜り場だったこのスナックは、店の名前からして「アカだ!」と、公安から睨まれたりしたらしい。
俺のボトルを出してもらう。マスターは馴染みの客につかまっているので、手酌で飲む。
「うまい。俺はジョニ黒がありゃ、もうなんもいらん!」
だいぶ酔ったらしい。カウンターにもたれて眠ってしまった。
淡い、夜明けの空の色は、お預けになった。
あの空なら、寡黙を、優しい寡黙を、俺にくれるはずと願って…


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