2010/4/17
4月17日〜小さな発見の大きな響き
キャロル・キング『タペストリー』
本作のプロデューサーであるルー アドラーは
「彼女がすぐ近くで歌い ピアノを弾いている
ような録音を心掛けた」と回想しているが 実際
アルバムの主人公もカーリーヘアにセーター
ジーンズに素足という飾らないいでたち 顔には
まだソバカスが残っているくらいだ
その音楽はそっと語り掛けてくるような親密さが
あり R&Bに根ざしたコクのあるビートがあり
不器用な歌いっぷりは 歌にかえって切迫感を与
えている
またこのアルバムはキャロル・キングの成長物語
と言えるかもしれない 天才少女作曲家としてデ
ビューした1950年代末の頃の如才なさに代わって
大人の視点が備わっていることに驚かされる
かつてシュレルズに提供した無邪気な「ウィル
ユー ラヴ ミー トゥモロウ?」は祈りの歌へと
生まれ変わり 「ナチュラル ウーマン」にはウ
−マン リヴ的な主義主張ではなく 男性との関わり
のなかで自分を発見していこうとするしなやかさが
溢れている そして「きみの友だち」で差し伸べら
れた手に気が付く時 聞き手は自分のなかに温かい
川が流れていることを知るだろう
本作を思いつめたような気持ちで聞く女性がいたら
ぼくはその人に恋をしてしまうかもしれない
小尾 隆
(初出記事は『ロック栄光の50年』vol.10 05年8月
講談社 今回少しだけ文章を新たにしました)

補足:高過ぎるチケット代や聞き手の保守化にこのlogでは
疑問を投げかけてきました その気持ちは今も変わりません
しかしその問題とはまた別に 昨日武道館で行われたジェイム
ズ・テイラーとキャロル・キングの『トゥルバドール リユ
ニオン』コンサートは 音楽的な志の高さに於いて予想を遥か
に超える圧倒的な素晴らしさでした 二人とも今もなお成長し
ていることが 懐かしい曲に込められた新しい息吹きが
そして何よりも音楽を信じていることが尊い そんなことを噛
み締めた夜でした 何かすごく大きいものを貰ったなあ
帰りに会場で流れたのが ジョージ ハリソンの「ビハインド
ザット ロックド ドア」 そのことも覚えておきたい


勝ったり負けたりと まるでバカみたいな世界
そのあいだにも きみの心はボロボロに壊れてしまった
こんなにひどくなるなんて思っていたの?
ならば私が 宇宙の足跡のように
あなたをきっと連れ出してゆく
あなたを きっと連れ出してゆく
「スペースシップ レイシズ」より

くたびれ切ったバーで身を沈める老人が言う
「お若いの こんな場所は初めてかな
あんたに聞かせたい話があるんだ
そう 親と子の物語なんだが 私はいつしか家を
出てしまった」
まるであなたと僕のような 喪失と発見
どうかそこに照らし出すような光が
ありますように
「オンリー フォー ミー」より

武道館から九段下方面を臨むの図
当日は雨が降っていました
葉桜もなかなかいいですね
本作のプロデューサーであるルー アドラーは
「彼女がすぐ近くで歌い ピアノを弾いている
ような録音を心掛けた」と回想しているが 実際
アルバムの主人公もカーリーヘアにセーター
ジーンズに素足という飾らないいでたち 顔には
まだソバカスが残っているくらいだ
その音楽はそっと語り掛けてくるような親密さが
あり R&Bに根ざしたコクのあるビートがあり
不器用な歌いっぷりは 歌にかえって切迫感を与
えている
またこのアルバムはキャロル・キングの成長物語
と言えるかもしれない 天才少女作曲家としてデ
ビューした1950年代末の頃の如才なさに代わって
大人の視点が備わっていることに驚かされる
かつてシュレルズに提供した無邪気な「ウィル
ユー ラヴ ミー トゥモロウ?」は祈りの歌へと
生まれ変わり 「ナチュラル ウーマン」にはウ
−マン リヴ的な主義主張ではなく 男性との関わり
のなかで自分を発見していこうとするしなやかさが
溢れている そして「きみの友だち」で差し伸べら
れた手に気が付く時 聞き手は自分のなかに温かい
川が流れていることを知るだろう
本作を思いつめたような気持ちで聞く女性がいたら
ぼくはその人に恋をしてしまうかもしれない
小尾 隆
(初出記事は『ロック栄光の50年』vol.10 05年8月
講談社 今回少しだけ文章を新たにしました)

補足:高過ぎるチケット代や聞き手の保守化にこのlogでは
疑問を投げかけてきました その気持ちは今も変わりません
しかしその問題とはまた別に 昨日武道館で行われたジェイム
ズ・テイラーとキャロル・キングの『トゥルバドール リユ
ニオン』コンサートは 音楽的な志の高さに於いて予想を遥か
に超える圧倒的な素晴らしさでした 二人とも今もなお成長し
ていることが 懐かしい曲に込められた新しい息吹きが
そして何よりも音楽を信じていることが尊い そんなことを噛
み締めた夜でした 何かすごく大きいものを貰ったなあ
帰りに会場で流れたのが ジョージ ハリソンの「ビハインド
ザット ロックド ドア」 そのことも覚えておきたい


勝ったり負けたりと まるでバカみたいな世界
そのあいだにも きみの心はボロボロに壊れてしまった
こんなにひどくなるなんて思っていたの?
ならば私が 宇宙の足跡のように
あなたをきっと連れ出してゆく
あなたを きっと連れ出してゆく
「スペースシップ レイシズ」より

くたびれ切ったバーで身を沈める老人が言う
「お若いの こんな場所は初めてかな
あんたに聞かせたい話があるんだ
そう 親と子の物語なんだが 私はいつしか家を
出てしまった」
まるであなたと僕のような 喪失と発見
どうかそこに照らし出すような光が
ありますように
「オンリー フォー ミー」より

武道館から九段下方面を臨むの図
当日は雨が降っていました
葉桜もなかなかいいですね
2010/4/21 1:52
投稿者:obin
2010/4/20 19:19
投稿者:新潟の141
小尾さま、こんばんは。はじめてコメントさせて頂くものです。
私もJT&CKのコンサートに行ってきました。それも小尾さんのすぐ後ろの席で。
小尾さんの著書『SONGS』は私のバイブルでいつも持ち歩いているほどです。その時は宿に本を置いてきてしまったのと、お邪魔をしちゃいけない、という気持ちでサインはお願いしませんでしたが、今度もし機会があったら勇気を出してお願いしようとおもいます。
コンサートは、本当に素晴らしいものでしたが、小尾さんの言うようにチケット代がもう少し安くなるといいですね。新潟在住の私にとっては往復の交通費、宿代、それに、東京で買う小尾さんオススメのレコード代(笑)、なんかで相当な出費になってしまいます。
私もJT&CKのコンサートに行ってきました。それも小尾さんのすぐ後ろの席で。
小尾さんの著書『SONGS』は私のバイブルでいつも持ち歩いているほどです。その時は宿に本を置いてきてしまったのと、お邪魔をしちゃいけない、という気持ちでサインはお願いしませんでしたが、今度もし機会があったら勇気を出してお願いしようとおもいます。
コンサートは、本当に素晴らしいものでしたが、小尾さんの言うようにチケット代がもう少し安くなるといいですね。新潟在住の私にとっては往復の交通費、宿代、それに、東京で買う小尾さんオススメのレコード代(笑)、なんかで相当な出費になってしまいます。
2010/4/19 17:38
投稿者:obin
安藤さん こちらこそお久しぶりです その後元気ですか
そっか〜 同じ16日にいらっしゃったんだ
いやあ 本当にすごい体験をしたという気持ちで一杯ですね
ジェイムズもキャロルも 見ている世界が とてつもなく大きい
それを感じられたことが一番の収穫かもしれません
少しでも手慣れたものや 卑屈なものが混ざっていたら嫌だなと事前に
は思っていたのですが 歌に対する気持ちのあり方が全然大きい
普通のことをただ歌っているだけなのに ひたすら大きい
自分の作った歌が歳月を経て他人のものになっている そんなことも
逞しい響きとともに伝わってきました 自分まだまだ小さいです(笑)
ジェイムズ天性のしなやかなリズム感も キャロルの”ソバカス声”も
クーチ先生の絶妙なオブリもたっぷり堪能しました
「きみの友だち」が大袈裟な展開ではなく ジェイムズが残した
スタジオ ヴァージョンに近い抑制の利いたグルーヴで演奏されたことも
すごく良かったなあ
ただし高過ぎるチケットは大問題 大学生が普通に足を運べないライヴ
なんて やはりどこかおかしいです
そっか〜 同じ16日にいらっしゃったんだ
いやあ 本当にすごい体験をしたという気持ちで一杯ですね
ジェイムズもキャロルも 見ている世界が とてつもなく大きい
それを感じられたことが一番の収穫かもしれません
少しでも手慣れたものや 卑屈なものが混ざっていたら嫌だなと事前に
は思っていたのですが 歌に対する気持ちのあり方が全然大きい
普通のことをただ歌っているだけなのに ひたすら大きい
自分の作った歌が歳月を経て他人のものになっている そんなことも
逞しい響きとともに伝わってきました 自分まだまだ小さいです(笑)
ジェイムズ天性のしなやかなリズム感も キャロルの”ソバカス声”も
クーチ先生の絶妙なオブリもたっぷり堪能しました
「きみの友だち」が大袈裟な展開ではなく ジェイムズが残した
スタジオ ヴァージョンに近い抑制の利いたグルーヴで演奏されたことも
すごく良かったなあ
ただし高過ぎるチケットは大問題 大学生が普通に足を運べないライヴ
なんて やはりどこかおかしいです
2010/4/19 12:27
投稿者:安藤
小尾さん、お久しぶりです。 同じ日に武道館にいたようですね。
「これは、単なる同窓会なんかじゃない!」って痛烈に思いました。
1970年から変わらない姿勢を貫きながら未だ前進をやめない。
色あせるどころか、その輝きを更に強く放つsongsがそこにありました。
僕らには、この音楽がある。ファンでよかった。
と思いながら、家路につきました。
ダニー・クーチもカッコ良かった。
「これは、単なる同窓会なんかじゃない!」って痛烈に思いました。
1970年から変わらない姿勢を貫きながら未だ前進をやめない。
色あせるどころか、その輝きを更に強く放つsongsがそこにありました。
僕らには、この音楽がある。ファンでよかった。
と思いながら、家路につきました。
ダニー・クーチもカッコ良かった。
2010/4/18 11:42
投稿者:obin
チャールズ ラーキー、大好きだったベーシストです
今回来日したリー スクラーも フィル レッシュも裏メロの取り方
にすごく歌を感じるようなタイプのベース プレイヤーですね 大好きです
そして美しいです
『ライムズ&リーズンズ』は地味なアルバムですが いいですよね
解る人にはきちんと届くような^ー^
「あふれた愛」の連作集のなかに 精神が破綻して療養する
中年男の一編がありますが 思わずかつての自分を重ね合わせてしまいました
今回来日したリー スクラーも フィル レッシュも裏メロの取り方
にすごく歌を感じるようなタイプのベース プレイヤーですね 大好きです
そして美しいです
『ライムズ&リーズンズ』は地味なアルバムですが いいですよね
解る人にはきちんと届くような^ー^
「あふれた愛」の連作集のなかに 精神が破綻して療養する
中年男の一編がありますが 思わずかつての自分を重ね合わせてしまいました
2010/4/18 10:10
投稿者:ちーくん
15,000円のチケットを買う余裕は無いけれど、630円の中古アナログなら買えるので、キャロル・キングのRhymes & Reasonsを買いました。
小尾さんが書かれたこのアルバムについての論評を、レココレ増刊号であらためて
読み直して、チャールズ・ラーキーとフィル・レッシュのベースプレイスタイルという観点が気になって。
でも結局はキャロル自身の歌声を聴くことの集中している自分に気がつきました。
数週間前にここで紹介されていた、天童荒太の「あふれた愛」も早速買って読みました。歳とともに涙腺が弱くなっていることもあり、通勤電車の中で読むのが大変でした。人に対する視線や感情、その表現にいたく感動しました。いい物語ばかりだと思います。
そんなこんなで、小尾さんの書かれたことをきっかけに、楽しんでいます。
小尾さんが書かれたこのアルバムについての論評を、レココレ増刊号であらためて
読み直して、チャールズ・ラーキーとフィル・レッシュのベースプレイスタイルという観点が気になって。
でも結局はキャロル自身の歌声を聴くことの集中している自分に気がつきました。
数週間前にここで紹介されていた、天童荒太の「あふれた愛」も早速買って読みました。歳とともに涙腺が弱くなっていることもあり、通勤電車の中で読むのが大変でした。人に対する視線や感情、その表現にいたく感動しました。いい物語ばかりだと思います。
そんなこんなで、小尾さんの書かれたことをきっかけに、楽しんでいます。
ご訪問ありがとうございます
すぐお近くの席にいらっしゃったとは、、、
今度は気楽に声をかけてくださいね^ー^
それにしても心底素晴らしいライヴでした!