東京ローカル・ホンクの木下弦二さんから初めて電話をもらったのは もう二年ほどまえの夏だったろうか その時にどういう会話をしたのかは忘れてしまったが 僕たちのバンドを知って欲しい 聞いてみて欲しいという彼の気持ちだけはまっすぐに伝わってきた これも何かの縁(えにし)かと思いその後の僕は彼らのライヴに幾度となく足を運び またこれからも もっとライヴに行ってみようという思いは募るばかりだ 東京ローカル・ホンクの良さをどう表現すればいいのかはよく解らないのだが 今日もまた僕と同じように東京の空を眺め 同じような街並を歩き 戸惑いながらも呼吸をしていることは間違いなかった そんな風に自分の側にいるという親しみを持てるバンドに出会ったことに奇跡にも近いような感慨を抱いた まるで広告代理店が書いたような気取った歌詞や 見せかけのポーズや虚勢 あるいは英雄的な態度に終始しがちな日本の音楽シーンのなかで 彼らはいつもの商店街を行き交う人々を観察し 各駅停車の窓から流れる雲を追いかけたりしていた 彼らの織りなすサウンドスケープもまた大向こうを張るのではなく 微妙な感情や陰影そして日向の匂いをデリケートに運び込んできた ときには伊豆半島まで遠出したり草の燃える匂いを嗅ぎながら 結論を急がない心のありようみたいなものは形になりにくい でも僕は東京ローカル・ホンクの答えとか結論を求めない音楽のあり方に惹かれ続けている そうまるで池に投げられた小石のように (小尾隆 2009年6月23日:記)

2010/8/31

8月31日〜人生の暗い側面  文学

佐々木譲『夜を急ぐ者よ』(集英社文庫 初出90年)を読了
350ページのサスペンス ロマン
今年39冊めの読書でした

過激派の政治犯に仕立てられてしまった青年が 資産家で
自民党員である父を持つお嬢さんと ふと出会う若き日の
回想を挟みながら 二人がその後辿った数奇な運命を炙り
出していきます

時と場所を経て二人が偶然にも那覇で再会し 空白を埋め
ようとする場面がひとつの山場ですが 一度犯罪を犯して
しまった者は常に人生の裏側を歩かなければならないのだ
ろうか? という作者の問いも苦く込められているような
気がします

また深読みすれば ”政治の季節”である60年代に青年期を
過ごした佐々木の”イデオロギー”や”徒党”への反発までも
が汲み取れるでしょう 終盤の抗争場面でかつての同士が
「お互い、くずれちまったもんだな」と独白するシーンに
作者のアイロニカルな視点がしっかり宿っています

音楽はまあ枕みたいなものですが ジョン レノンが射殺
された日の新宿の様子などを描いていて 私も他人事とは
思えませんでした あるいは荒井由実が松任谷由実に変貌
していく小技も 鮮やかに時代の移ろいを捉えています

今や直木賞作家として著名な佐々木譲ですが 20年まえに
書かれた本書では 現在の技巧の上手さだけではない
自画像(self-portrait)までが込められていたのではないで
はないでしょうか?

一級品のエンターテイメント小説という以上に
人生の暗い側面について考えさせられました

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