東京ローカル・ホンクの木下弦二さんから初めて電話をもらったのは もう二年ほどまえの夏だったろうか その時にどういう会話をしたのかは忘れてしまったが 僕たちのバンドを知って欲しい 聞いてみて欲しいという彼の気持ちだけはまっすぐに伝わってきた これも何かの縁(えにし)かと思いその後の僕は彼らのライヴに幾度となく足を運び またこれからも もっとライヴに行ってみようという思いは募るばかりだ 東京ローカル・ホンクの良さをどう表現すればいいのかはよく解らないのだが 今日もまた僕と同じように東京の空を眺め 同じような街並を歩き 戸惑いながらも呼吸をしていることは間違いなかった そんな風に自分の側にいるという親しみを持てるバンドに出会ったことに奇跡にも近いような感慨を抱いた まるで広告代理店が書いたような気取った歌詞や 見せかけのポーズや虚勢 あるいは英雄的な態度に終始しがちな日本の音楽シーンのなかで 彼らはいつもの商店街を行き交う人々を観察し 各駅停車の窓から流れる雲を追いかけたりしていた 彼らの織りなすサウンドスケープもまた大向こうを張るのではなく 微妙な感情や陰影そして日向の匂いをデリケートに運び込んできた ときには伊豆半島まで遠出したり草の燃える匂いを嗅ぎながら 結論を急がない心のありようみたいなものは形になりにくい でも僕は東京ローカル・ホンクの答えとか結論を求めない音楽のあり方に惹かれ続けている そうまるで池に投げられた小石のように (小尾隆 2009年6月23日:記)

2008/6/12

ナポレオンフィッシュと泳ぐ日  

佐野元春が89年に発表したこの『ナポレオンフィッシュ』アルバムを
初めて聞いた時の衝撃は今も忘れることが出来ない アルバム表題曲
から「陽気に行こうぜ」へと続き さらに「雨の日のバタフライ」へと
連なっていく冒頭の三曲は まるで主人公が崩れていく瓦礫を感じながら
新しい世界へと踏み込んでいくような確かな鼓動を感じさせたものだ 
                              
抽象度を増す歌詞の一方で 打ち鳴らされるビートは以前より遥かに強靭なもの
となり 一気に視界が開けていくような開放的な響きを獲得している
そして佐野のヴォーカルは ”聖者が来ないと不満を告げているエレクト
リック ギター” のような苛立ちと ”テロリストも怖くない” という
力強さとの間で 見事な振幅を描き出していく

初期の作品に顕著だったストーリーテイラーとしての語り口の
巧さや 青春群像を提示して聞き手と共振するといった手法をいったん
白紙に戻した彼は ご存知のように訪問者としてニューヨークへと
旅立ち ボヘミアンとしてパリへ向かうことで のっぴきならない
時代と よりシンクロするような歌作りを自身に課していく
そんな緊迫感が ロンドンの優れた演奏家たちの情感豊かな
な音楽と結晶したのが
まさに『ナポレオン』アルバムである

「俺は最低」や「ブルーの見解」で見せる他人との齟齬やファン
との乖離といったテーマは この時期の佐野がどうしても
乗り越えなければならなかったハードルだったのだろう
だがその一方で このアルバムには比較的明快なラヴソング
「ジュジュ」があり 今も歌われ続けるアンセム「約束の橋」
があり その揺れ幅もまた佐野の<報告>であろう
事実ライヴの場で歌われた「ジュジュ」の ”きみがいない”
という絶叫は ラヴソングの文脈を遥かに超えて聞き手に迫った
ものだった

果たして自分が89年に何をしていたのかは はなはだ心もとない
のだが この作品は見事に時空を超えている
アルバムは穏やかな収束を見せるリーディング作品「二人の理由」
で なだらかな丘陵を追いかけながら 祈りのように終わるのだが
音楽はまだずっと鳴り響いている














コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ