東京ローカル・ホンクの木下弦二さんから初めて電話をもらったのは もう二年ほどまえの夏だったろうか その時にどういう会話をしたのかは忘れてしまったが 僕たちのバンドを知って欲しい 聞いてみて欲しいという彼の気持ちだけはまっすぐに伝わってきた これも何かの縁(えにし)かと思いその後の僕は彼らのライヴに幾度となく足を運び またこれからも もっとライヴに行ってみようという思いは募るばかりだ 東京ローカル・ホンクの良さをどう表現すればいいのかはよく解らないのだが 今日もまた僕と同じように東京の空を眺め 同じような街並を歩き 戸惑いながらも呼吸をしていることは間違いなかった そんな風に自分の側にいるという親しみを持てるバンドに出会ったことに奇跡にも近いような感慨を抱いた まるで広告代理店が書いたような気取った歌詞や 見せかけのポーズや虚勢 あるいは英雄的な態度に終始しがちな日本の音楽シーンのなかで 彼らはいつもの商店街を行き交う人々を観察し 各駅停車の窓から流れる雲を追いかけたりしていた 彼らの織りなすサウンドスケープもまた大向こうを張るのではなく 微妙な感情や陰影そして日向の匂いをデリケートに運び込んできた ときには伊豆半島まで遠出したり草の燃える匂いを嗅ぎながら 結論を急がない心のありようみたいなものは形になりにくい でも僕は東京ローカル・ホンクの答えとか結論を求めない音楽のあり方に惹かれ続けている そうまるで池に投げられた小石のように (小尾隆 2009年6月23日:記)

2009/10/6

帆アフリカ主義の結晶〜I'll Take You There 物語  

almost prayedさんが紹介してくださったように
ロブ ボウマンの『スタックス レコード物語』
には ステイプル シンガーズの”Respect You
rself " と並ぶ最高傑作“I'll Take You There "の
誕生秘話が語られているので いくつか要約して
みよう

1 トラフィック在籍中のディヴィッド フッド
  が ウェイラーズ『キャッチ ア ファイア』
  を聞き そのレゲエビートをI'll Take You Th
  ereに援用した

2 アイランド レーベルの社長であるクリス ブ
  ラックウェルは マスルのギタリストであるジ
  ミー ジョンソンをジャマイカ旅行に案内した
  同地でレゲエのレコードを買い込んだジョンソン
  は 帰国後マスルのメンバー全員にそれを渡した

3 スタックスの社主 アルベルは”帆アフリカ主義”
  という理念を掲げており 北米とカリブ海の黒人
  音楽の融合という夢を抱いていた もっともスタ
  ックスの倒産によって挫折してしまうのだが、、、

4 I'll Take You There は69年のジャマイカ ヒット
  であるハリー J オールスターズ「ザ リクイデ
  ーター」のベースラインとリックをほとんどその
  まま借用している(同曲はレゲエのコンピレイショ
  ン アルバムなどで容易に聞ける)

5 マスルでI'll Take You There" を録音していた際に
  メイヴィス ステイプルはギターソロの部分でエ
  ディ ヒントンの名を呼んだとフッドは回想してい
  るが アーデント スタジオでヴォーカルが差し替
  えられた時に この掛け声は「Daddy」に改められ
  た これはライヴで実際にギターを弾くのが パッ
  プス ステイプルだから( 私たちが 現在聞けるのも
  勿論”Daddy" の掛け声テイクである)

6  ボウマン自身I'll Take You Thereに関して ジミ
  ーのミュートが効いたイントロから ホウキンス
  が全体を通すリムショット エディのリック そ
  して3/2部分でのフッドのベースまで べた惚
  れ状態であり 同曲をステイプルズ マスルショ
  ールズ アル ベルの総力戦だと位置付けている

エリック クラプトンがマーリー「俺はサツを撃っち
まった」をカヴァーするおよそ2年まえ アラバマ州
シェフィールドでは このようなミクスチャーが実践
されていたのである 

〜5に関する個人的な追想〜

もしメイヴィスが「エディ!」と呼ぶ初期テイクが採用
されていたとしたら この不遇なギタリストの運命も変
わっただろうか? 歴史とはいつもそういう見えない連
続線の上に成り立っているのだ
ちなみにI'll Take You There (stax 0125)は72年の4月
15日に全米ポップチャートで第一位へと昇り詰め その
座を二週間保った むろん「私はあなたを連れてゆく」
という肯定的なメッセージも 大ヒットした要因だろう



2009/10/10  12:19

投稿者:obin

人脈から広がっていく好奇心
これも音楽を聞く醍醐味のひとつですね
フッド氏からステイプルズに辿り着く
そんな流れや広がりに興味を持ちながら
自分は聞く音楽の領域を少しずつ広げて
きたのかもしれません

今日は激しく落ち込んでいるので
ごめんなさい(涙)




2009/10/10  6:24

投稿者:てるきん

 この記事を読んで、ステイプル・シンガーズ聴き直しています。
 新たな発見がありました。
 obinさんに感謝です。
 先日のドニー・フリッツ体験をこういった形で深化できるとは幸せです!

2009/10/8  7:03

投稿者:obin

長尺演奏というと仕掛けの多いプログレッシ
ヴロックや個々のインタープレイがせめぎ合
うジャズを思い起こす人が多いのでしょうが
確かにトラフィックの場合はそうではなくグ
ルーヴの波を重ねていくことに主眼を置いて
いますね(僕はフロウという言葉でそれを表
わしたりします)そんな意味ではデッドのあ
り方に近いかもしれません テンションで
引っ張っていくのではなく じわりじわりと
リズムの波を重ねていくーこういう方法は
いわゆる娯楽的なロック産業のなかではな
かなか理解されませんね 

2009/10/7  20:20

投稿者:Almost Prayed

後期のトラフィックは、音楽性としてはかなり不思議なグループですよね。長尺の演奏はジャズからの影響なことは確かですが、同時期のUKの多くの「ジャズ・ロック」勢のように、苛烈なインタープレイの応酬を表現の中軸に置くわけでもなく、さりとて後の「フュージョン」のようなスムースで耳当たりの良い感じへ向かうでもなく、強靭なリズムを強調したファンクに走ったわけでもなく。全体的な音の感触はふわふわと浮かんでいるような、そんな印象を持っています。生きたリズムとグルーヴに対する視点を鋭く利かせているのは、スティーヴ・ウィンウッドの以後のソロ作でも変わらない特長ですが、自分の表現に適するような変容・混合を経た上でリズムやグルーヴを活用させることを、彼は常に意識してきたという気もします。

従来のマナーから大きく逸脱して新しいグルーヴを織りなすと言えば、白人ポップスの曲までも大胆果敢に長尺化した表現に挑んだ、アイザック・ヘイズとも通ずる姿勢があるのかもしれませんね。日本のソウル・ファンには嫌う人も多いという話ですが、自分、実は大好きなんですよ(笑)。

2009/10/7  1:10

投稿者:obin

どういたしまして
インディペンデントな環境と音楽家の創意が
合致した時 本当に新しい”ミクスチュア”を
生み出すんだな と僕自身読んでいて実感し
ました 偶然の好奇心が時代の波に重なって
いくようなスリリングな瞬間 それが”I'll
Take You There" という傑作中の傑作を生
み出したということでしょう また同時に
ロックがロックというスタイルをなぞり
ソウルがソウルというマナーを守っている
だけではこういう音楽は決して生まれてこ
ないという逆説をも示しているような気が
してなりません
そんな意味では(くどいようですが)ステ
ィーヴ ウィンウッドの近作がやはり俄然
光ってくる そんな印象も改めて思いまし
た ホセ ネトのようなウィンウッドとは
明らかにバックグラウンドが異なる音楽家
を見つけ出してくる旺盛な好奇心といい
そうした出会いのなかで新しいグルーヴを
丁寧に丁寧に織りなしていくピュアな心と
いい 『アバウト タイム』『ナインライ
ヴス』と続く流れは 僕の音楽体験のなか
でも最高の部類に入るものでした
10年に一度あるかないか位の”本当の傑作”
それに気が付くような耳をいつも持ってい
たいものですね





2009/10/6  19:51

投稿者:Almost Prayed

ありがとうございます。こうして事項をまとめられたのを見ますと、各方面からの影響が、かの地にてひとつの形として構築/再解釈されていく過程や関係性がはっきりと見えてきますね。ともすれば「保守的」「昔ながらの」などと思われがちなアメリカ南部産の音楽ですが、他方面からの影響の吸収と解釈が、実際の現場では積極的に行われていたということなのですね。

同じ書籍にて、メイヴィス・ステイプルズは「バリー(・ベケット)たちは一緒にスタジオに入ってくれたから、お互いに刺激しながら演れた」ことがメンフィス/スタックスとの大きな違いとして、また、ルーサー・イングラム(自分にとって掛け値なしに「最高」のシンガー)は「(マッスル・ショールズの面々は)わたしの希望通りにやってくれた」ことがスタックスとの違いだと語っていましたが、シンガーの意も積極的に反映させた上で、現場のスタッフ全員が団結して、より良い作品の実現に一所懸命に取り組んだという姿勢も、当時にマッスル・ショールズのミュージシャンが支持された要因なのでしょうね。同時期のスタックスでは、そういう姿勢が消えてしまっていたということを思うと、何だか複雑な気持ちにもなりますが・・・

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