東京ローカル・ホンクの木下弦二さんから初めて電話をもらったのは もう二年ほどまえの夏だったろうか その時にどういう会話をしたのかは忘れてしまったが 僕たちのバンドを知って欲しい 聞いてみて欲しいという彼の気持ちだけはまっすぐに伝わってきた これも何かの縁(えにし)かと思いその後の僕は彼らのライヴに幾度となく足を運び またこれからも もっとライヴに行ってみようという思いは募るばかりだ 東京ローカル・ホンクの良さをどう表現すればいいのかはよく解らないのだが 今日もまた僕と同じように東京の空を眺め 同じような街並を歩き 戸惑いながらも呼吸をしていることは間違いなかった そんな風に自分の側にいるという親しみを持てるバンドに出会ったことに奇跡にも近いような感慨を抱いた まるで広告代理店が書いたような気取った歌詞や 見せかけのポーズや虚勢 あるいは英雄的な態度に終始しがちな日本の音楽シーンのなかで 彼らはいつもの商店街を行き交う人々を観察し 各駅停車の窓から流れる雲を追いかけたりしていた 彼らの織りなすサウンドスケープもまた大向こうを張るのではなく 微妙な感情や陰影そして日向の匂いをデリケートに運び込んできた ときには伊豆半島まで遠出したり草の燃える匂いを嗅ぎながら 結論を急がない心のありようみたいなものは形になりにくい でも僕は東京ローカル・ホンクの答えとか結論を求めない音楽のあり方に惹かれ続けている そうまるで池に投げられた小石のように (小尾隆 2009年6月23日:記)

2009/10/12

佐野元春、再び路上に  Rock N Roll

佐野が再び旅に出る
1月から始まる全国ツアーは
どうやら 長い旅になりそうだ
それもホーボー キング バンドとの邂逅
10年以上連れ添い 苦楽を分かち合った仲間たちとともに
佐野は再びロードへと立ち戻る
自分の歌を 確かめるために
自分がこれまでしてきたことを 試すために
再び 街に繰り出していく

佐野ほど”僕”と”きみ”の関係性を
しっかりと 辛抱強く 築こうとする音楽家を
僕は他に知らない

退屈なロジックに陥ることもなく
アヴァンギャルドの迷宮を彷徨うこともせず
むしろ彼はポップ音楽の普遍を
一見平易に映るような言葉の連なりのなかで
輝かせてきた
暗雲が立ち込める日には そっと
海岸線がすくっと見渡せる晴れた日には 力強く

2年まえのツアー最終日 国際フォーラムでの演奏は
ずっとずっと余韻を残す 3時間の疾走だった
聞き手それぞれの過去と現在を優しく照らし出し
佐野は この困難な時代に生きていくことの尊さを
楽しい音楽とともに そっと運び込んでいた
ポップ音楽への献身 ロック音楽の連続性への敬意
言葉は紙コップから溢れ出し
音楽はずっと河口へと続いていった
地下鉄に乗った女性ファンの 宙を見つめるような表情は
ロック音楽の最も輝かしい瞬間を
僕に思い起こさせるほどだった

「ファンがどこで僕と離れようが またどこで僕と再会しようが
僕は僕の音楽をやっていくだけです」
その一言に込められた大きな流れを 柔らかい響きを 聞き手は知っている

誰にも従わず 傷の手当もせずに
僕たちは佐野の音楽に 心を震わせてきた

小尾 隆


*(この原稿は佐野元春が08年に行ったツアー”sweet soul, blue beat "
のために書かれ 同ツアーのパンフレットに採用されたものです)










 




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ