「人間を惑わせば、それを止められるの? ……つまり、人間を忌み嫌っているなら、殺せばいいじゃない」 「それは生物に淘汰圧をかけることになり、抵抗力の強い個体を生み出してしまいます。 家畜の病気を考えてください。猛烈な疫病にさらされた家畜は一度に多数が死にますが、全滅することはめったになく、少数が生き延びる。その個体は疫病への抵抗力を持っているので、じきに繁殖して以前よりもっと丈夫な群れを作り上げる。 ……しかし、疫病ではなく種無しの個体・・・・・・が多く交ざりこんできたらどうなりますか?」 「……いつの間にか子供の数が減って、群れは弱っていくだろうね」 うなずいたクリオンは、シエンシアの言いたいことに気づく。 「それが『遷ろう者ども』のしていたことか。民を殺すと軍隊が出てきて反撃されるから、反撃されないような方法を選んだんだね」 「でも、今では公然と敵対しているわ」 口を挟んだ霞娜に、クリオンが言った。 「それは予が「見極め」てしまったからだよ。今の総力戦は、グルドにとっても本当ならやりたくないことなんだ。……そうでしょう? シエンシア」 「ご明察です」 シエンシアが深々と頭を下げる。 「直接殺戮は愚かな手段です。 それは何よりも生きものに『危機を自覚させ』る。生き延びようと抵抗する生きものほど手強いものはありません。 だからグルドはそれを避けようとしていた――そして同じ理由で、ことが明らかになってしまった今では、抵抗する個体を後世に残さないように、壊滅を狙ってきているのです」 |