まず、メンバーの誰よりも早く会場入りし、舞台監督を始め、スタッフ全員に挨拶。自分の身分と仕事内容を告げ、すぐステージのセッティングをします。
ステージのセッティングを終えてからは、時間があればトロンボーンの練習をし、時間がなければそのままメンバーを出迎えます。
笑顔で、必ず一人ひとりの目を見て元気に挨拶。自分がこの仕事をやっていて一番気を使っている部分。例外はなく、どんな状況下でも絶対に
「おはようございます」「お疲れ様です」
どんなに冷たくあしらわれても、どんなに怒られても、自分たちは元気でなければいけません。
特に先生の出迎えは、駐車場まで迎えに行き、楽器や手荷物を持って楽屋まで案内します。
その後はすぐリハーサルに入ります。
リハーサル中は、ステージ上…あるいは客席で、メンバーの動向をチェックし、要求に即座に反応できるように待機しています。決して気は抜けません。
リハーサルが終わると、メンバーの楽屋にて食事&小休憩。スケジュールがタイトな時は食事を取れない場合もあります。それでも走り回ります。
余裕があれば再び楽器の練習。運が良ければメンバーが指導してくれますが、待っていてはだめなので最近では、自分から指導を請います。
本番の30分前には先生の楽屋に行きます。先生のお着替えやその他庶務を手伝い、本番の5分前にはメンバーの楽屋へ行き、全員をステージ袖に上げます。楽屋に全員いない場合は、メンバーのいそうな所を予想し、必ず口頭で本番5分前の旨を伝えます。その後また先生の楽屋へ走り、ステージ袖まで先生のお供をします。この間、必ず先生の前を歩き、遮蔽物がないか確認しながら進みます。ステージ袖は案外暗いので、ケーブルに躓いたりする事が多々あるからです。また、そうすることによって、先生がこれから本番に臨む、という事を周囲に知らせる事もできます。先生ともなれば、本番前や本番後の挨拶はひっきりなしなんです。本番直前で挨拶に来られては迷惑になる場合もありますので、言い方は悪いかもしれませんが、それらを遠ざける事ができます。
そして、照明が華やかに踊るステージへとメンバー全員を送り出し、自分は明かりの入らないステージ袖で演奏を見学。本番中は特に動く必要がないので、この隙に一服したり、あるいはその演奏を聴いて勉強をします。メンバーの一挙手一投足を追いかけ、目や耳で盗めるものは全てここで盗みます。盗み損ねたものは次回、また次回へ、と。
本番が終わる頃には、確実にステージ袖で待機をします。そして、本番が終わって袖に戻ってくるメンバー一人一人にまず「お疲れ様でした」と挨拶。この場合は、元気良く、というよりは少しトーンを落として挨拶をします。この場合はあまり元気が良すぎても、帰って気分を害する場合があるからです。でも笑顔は忘れません。
そして、舞台監督から撤収OKのサインが入ったのを確認するとすぐにステージのバラシに入ります。この時ばかりはステージ上は戦場と化します。照明スタッフ、音響スタッフ、バンドボーイ(いわゆるボーヤ)が入り乱れるからです。一番忙しい時です。たとえば、ステージ上の譜面台が片付かなければ大型機材も撤収できないので、それを早く撤収させるためにまずバンドスタッフがステージ上のものを迅速に片付けます。ドラムなどの楽器は乱雑に扱えないため、速度の他に慎重さが求められます。
そして片付けた機材を車に詰め込み、最終チェックをして仕事を終えます。
バンドスタッフ2名に対し、メンバーは17人。一人で役8人分の機材を担当します。並大抵のキツさじゃありません。それでも笑顔で、必死に、汗をかきながら周りにも気を遣いながら…
全ての作業が終わる頃には、メンバーはもう誰も帰って楽屋にはいません。誰よりも早く会場入りし、誰よりも遅く会場を出ます。
これが、修行中のミュージシャンの現実です。
華やかな世界の裏にはこういう影があります。
でも自分は縁の下の力持ちでも、影の功労者でもなんでもなく…
ただの修行僧です。
ただの修行僧…
それでも修行するのは、
なにかの受け売りみたいだけど
「自分」というやつを本気で信じてるから。
自分さえ信じて行動してれば、あとは自分がなんとかしてくれる。
そう思うんです。
もっともっと上手くなって、あの華やかなステージへいつか。
自分がなんとかしてくれるから、自分を信じて。
自分自身への励ましの言葉。自分自身より。

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