「サラリーマンはよく、自分がいなければ会社が回らないと思っているからな。お前のは、それと同じ発想だよ。それは世間が狭い人間の錯覚にすぎない。自分の代わりが務まる人間は、実は組織には大勢いる。じゃあ、なぜ彼らが出てこないのか。こたえは簡単。自分がそのポストにいるからだ。いったんそのポストが開いたら、すぐに変わりの、実はもっと優秀な人間が現れる。それは会社でも一般社会でも変わらない。世の中とはそういうもんだ。だから、回っていくのさ」・・・
友人から読んでみろと言われて借りてきた、池井戸 潤氏著「鉄の骨」の中で、業界のフィクサー三橋が、自分たちは変わりのきく部品なのかと問う主人公平太に言って聞かせる言葉です。実に面白い本です。ついつい引き込まれていくストーリー展開がテンポ良く、寝る間を惜しんで読んでいます。
冒頭の部分はなかなか味のある言葉です。商社や問屋などでよく言われることに「暖簾が商売させてくれているのだ」というのがあります。商談をまとめるまでの努力は認めるが、個人の力ばかりで成果が生まれるのではない。暖簾という伝統と信用の中にあってこそ、初めて成果が生まれるのだと言うところではないかと思います。支えられて生きているんだという謙虚さがない限り、人間は大成しないと言うことなのかもしれません。
一つの狭い社会の中に閉じこもっていると、往々にしてこうした錯覚に落ちるのではないでしょうか。自分では大まじめに考えていることでも、世間から見れば何か勘違いしていないかと写る。本当は基礎から築き上げていくべき信用を、途中をはしょって繕ってみても成果は生まれない。信頼に基づく人の輪は広がらないということではないでしょうか。自分たちの周りにもそんな事例が見受けられるこの頃です。
もう少しですので、読んでしまおうと思っています。

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