この秋に
米沢穂信の
〈古典部〉シリーズを5冊読んでいたので、取り合えず1冊目の『
氷菓』についてだけでも、この機会にごく個人的な感想等を少々UPしておきたいと思います。
『氷菓』は〈古典部〉シリーズの1冊目で、アニメ版『氷菓』で言うと第1話から第5話にあたる内容。

地元の県立高校の古典部で昭和42年(1967年)の昔に起きたある事件の真実を、現役の新入生が2000年,平成12年
(アニメ版では2012年,平成24年)の時点から探り出そうとするミステリー(?)、…って感じの物語でした。
昭和42年(1967年)と言うと、時代的には
東京五輪の後で
人類月面到達の前、
第三次中東戦争があって『
ウルトラセブン』の本放送の年でもあったのかと。
60年代の
安保闘争の前後やその余波の残っていた時代の空気感って、今の日本の社会を理解する上では不可欠な知識(或いは感覚)かと思います。
(今日閣僚ポストの殆んど全てを占めている某ナントカ会議なる団体も、元々は60年代安保とかのアンチテーゼでもあったようですし…。)
当時の様子を現代史の知識としては知っていても、当時の空気感を肌で知らない世代なので、個人的にも大いに興味を惹かれました。
〈ハルチカ〉シリーズで言うと「エレファンツ・ブレス」や「初恋ソムリエ」の辺り、ジブリアニメで言うと『コクリコ坂から』の辺りかと。

特に、その当時の空気感が当時の地方の中核都市にはどのように波及していたのか?については、個人的にはもう全く予想もつかない世界でした。^^;
『
斗争』の生々しい内幕にはリアリティーを感じました。
高校時代の個人的な経験としては、署名運動とかは普通にありましたが、ストライキとかはさすがに無かったなぁ。
ひな壇に登らされハシゴを外され、権限は一切無いのに責任だけは一身に負わされて、結局最期は下から火を点けられて滅ぼされて行く…、って話は、無いようでいて世の中にはいくらでもあることだってつくづく実感させられているからです。
陛下を庇って東条を罰した連合国の裁定は概ね正当だったとは思いますが、世の中の全ての裁定者がそのような少々雑でも的確な裁定を下す訳ではないでしょう。
更にこの場合には、生徒の側に責任を負わせることで学校側の管理者責任の軽減をも図ろうとする管理職側(主に校長)の計算も働いていたのであろうことも、大人的には感じてしまいます。
「 その頃、退学処分はいまよりもずっと簡単に出たものよ。 」のくだりについては、その感覚ならおいらの世代にも何となく分ります。
おいらの時代でも女子の場合などは、学校によっては「妊娠したら問答無用で一発退学」って話は普通に聞いたことがあるからです。振り返って考えて見れば、戦時中でもないのに未成年者の人権をいともたやすく軽んじる“怖い時代”だったんだなぁ、と改めて感じます。
「いつかもう一度お会いしたいと思っていたのに」とは言っても、
関谷先輩はたとえ会えたとしても、もう誰とも会ってはくれないのでしょう。
関谷先輩の立場に立てば、ともすれば世の中など最早まともに関り合う価値などの全く無い、欺瞞に満ちたおぞましい場所でしかないからです。それだけの仕打ちを世の中が(学校や教師や仲間達が)関谷先輩にしたからです。
それまでの自分と社会との関りを根底から全否定し抜けるだけの全く別次元な新天地こそが、関谷先輩には必要だったのではないでしょうか?
その全く別次元な新天地とは、関谷先輩にとっては必ずしもこの世でなくても良かったのかも知れません。仮にもし生きているとしても、もはや元の世界に戻って来る意思が無いのでしょう。
それが遠い外国で消息を断った理由なのではないのか?とも個人的には思えてしまいました。

しかしながらおいらのこの感想はハズれていて欲しいとも望みます。それではあまりにも悲しすぎるから。(ToT)
折木供恵の言葉にある「あれも悲劇よね。嫌だったわ」には全く同感であります。
もはや時効とは言え、
「優しい英雄」関谷純の悲劇が数十年後の身内や後輩たちによって改めて再び語り継がれて行くのであろう未来の描かれている所が、この物語の救いになっているのだと思います。
好き嫌いで言うと、個人的には好みのお話でした。
『氷菓』は文庫本で約200頁くらいの薄さで読み易いと思います。

〈古典部〉シリーズは今の時代の高校生の物語ですが、1冊目の『氷菓』に限っては現代の高校生が昭和42年の昔の事件の真相を探り当てようとするミステリー。
『氷菓』が面白かった人には、〈古典部〉シリーズのその後の続巻(『
愚者のエンドロール』,『
クドリャフカの順番』,『
遠まわりする雛』,『
ふたりの距離の概算』等々)もお薦めかと思います。
(最新刊の6冊目『いまさら翼といわれても』は個人的には未だ読めてないです。)
〈古典部〉シリーズを読もうかどうか迷っている人には、この1冊目の『氷菓』か,短編集の4冊目にある表題作の短編『遠まわりする雛』の辺りが、取り合えずは試し読みにお薦めかと。
ところで、「古典的名作と呼ばれるある漫画」,「寺とかミューとかナンバーズとか」・・・とは、恐らくはあの作品

でせう。(^^)
当ブログ内の関連記事
161227 氷菓アニメ版 観た
171112 氷菓 映画版 観て来た
180207 愚者のエンドロール 再読 感想
171030 クドリャフカの順番 再読 感想
161029 ふたりの距離の概算 読んだ
171016 いまさら翼といわれても 読んだ
160629 ハルチカ原作5冊 読んだ
110806 コクリコ坂から 観て来た
071210 地球へ… 映画版 観た
180116 ドキュメント日本会議 読んだ
170429 終戦のエンペラー 観た

0