あちこちでいろいろな人とお話をしていて、気づくことがたくさんあります。
先日も、「イライラさせる人がいるわけではないんですよね」と、話の途中で何気なく言ったところ、そのあとの食事会で、隣の人からこのように言われました。
「私は結婚して20年ほど経ちますが、姑や家族の問題で、ずっとつらい思いをしてきました。イライラさせる人がいるわけではない、という話は納得できません。実際にイライラさせる人が、世の中にはいるではありませんか」
その女性は、環境問題などを勉強し、“意識”や“心”の研究をしてきたそうです。結婚生活も二十年を超えるとのこと。
「イライラさせる人、ということですが………」と、私はその方に説明を始めました。
「イライラさせる人って、どこかに存在するでしょうか、ね」
けげんな顔をして、その方は私を見ました。
「ある人が私の前に現れたとします。何かを言ったり、通り過ぎていったりしたとします。その人に対して、『私』が何も感じなかったとします。では、その人は『イライラさせる人』でしょうか」
「もちろん違います」
「そうですよね。では、その現れた人に対して『私』がイライラを感じたとします。その人は『イライラさせる人』でしょうか」
「そうですよね。そこに『イライラさせる人』がいますよね」
ははは、と私は声を上げてしまいました。
「もう一度聞きますが、初めの例で『私』が何も感じなかったときは、目の前の人は『イライラさせる人』ではなかったのですよね?」
「そうです」
「それが『私』がイライラを感じたときに『イライラさせる人』になったのですよね?」
「………」
その女性は黙り込んでしまいました。
あとで聞いた話では、そのときの衝撃は大きいものだったそうです。
「『私』がイライラしたとき、初めて目の前に『イライラさせる人』が出現したのですよね。では、『私』がイライラしなかったら、『イライラさせる人』は生まれないし、いないのですよね」
その女性は(後々での話ですが)、
「それだったら、今までの20年で背負ってきた重荷は、自分が勝手につくり上げた“想像の産物”であり、実体のないものなの? そんなばかな………。今まで苦しんできたのは何だったのか」
と思ったそうです。
あまりにも単純すぎて、多くの人、とくに、人間関係に苦しんできた人にとっては、とても認めがたいものであるに違いありません。
つづく
(「この世の悩みがゼロになる」小林正観著 大和書房刊より)

0