「ベ―ト―ヴェン交響曲全集を聴き直す Part.6」
交響曲
Polydor Japan MG 9801/9 9LP 1973
6番の交響曲である。これは、1971年5月24〜25日に於いて収録されたものだ。会場は、ウィーン楽友協会大ホールである。これは、私が始めて巨匠のベートーヴェンのレコードを聴いて感心した演奏だったが、実に譜読みの深い演奏だと思う。なので「田園」なんて俗称は全く必要もない。造型も所謂、質実剛健だが、その硬さは、ウィーン・フィルによって和らげられているので、互いの個性が巧く調和した演奏と言える。しかしこの演奏を聴いていると、のんびりした田園風景が頭に浮かんでこない。寧ろアルプスの山々にある巨大な岩石とかの険しく厳しい風景が相応しいのだ。それも登山の最中に見える緑や山花を見つけた感じと言えば、少しは想像もつくだろうか?なので第1楽章のテンポも、そんな足取りを思わせ、リズムも実に明確である。だから雰囲気に呑まれる事も無い骨格のしっかりしたものだが、とても見事な構成的解釈なので、流麗な印象からは程遠い。巨匠の考えるこの交響曲のアプローチは一味違う。前半楽章が冴えないなんて巷の感想は、その為だろう。だが目の前に聳え立つような趣きのある立体感も凄まじい。だが各主題の性格が、これ程までに明確なレコードもそうないだろう。だから表題音楽の理念から見れば、情景描写に乏しいのは仕方在るまい。尚、テンポは意外とサラリと駆け抜ける感じで早めに聞こえる。それは余計なものがない、純真な演奏だから尚更かも知れぬが、いつもの表情ひとつ変えずに指揮棒を振る姿が浮かぶ程だ。それは、第2楽章も同様である。とても安定した造型の中で音楽が羽ばたいている。田園と言うよりは、大河の流れを連想させる。聴いていて、とても耳に心地良い響きである。木管による小鳥の模倣も素朴で良い。然も音楽の流れは全て巨匠の手中に在ると言った印象がある。第3楽章は、無理のない遅めのテンポで始まるが、木管やホルンの色彩感が前半楽章よりも活かされている感じがする。リズムは重めだが雰囲気が豊かで、音楽が、たっぷりと息衝いているもの良い。第4楽章は、シンフォニックな表現なので音の動きがよく見れる。決して力ずくでは無い純音楽的な表現である。終楽章に優美さを求めないのも巨匠らしい。金管が、この楽章では、より大活躍しているのを聞いていると収録した1971年が定説に在る最後の巨匠の全盛期であるのも納得がいく。「弦よりも金管がものを言う」のは、実演でも聴けた巨匠特有のバランス感覚でもある。だがそれによって音楽が平坦に成らずに立体感が出ているのも事実である。しかし最後まで聴いても「田園」と言う表題が浮かばない。これは新即物主義の音楽家である事を実証している。演奏自体は美しい。

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