「伝説の1975年公演を聴き直す。続編 Part.3」
伝説の1975年公演
Polydor Japan 92MG 0752/5 4LP 1984
3枚目である。曲は、3月16日の演奏からベートーヴェンの第4交響曲と翌日に演奏されたストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」である。ストラヴィンスキーの曲のリハーサルの件は、先に述べたが、このベートーヴェンのリハーサルも結構難航した様である。それは、冒頭の序奏部分だが、とにかく音合わせが大変だった様である。講釈はさておき演奏の感想を述べよう!最初は、ベートーヴェンの第4交響曲である。演奏スタイルは、全集のものと然程変わりは無いが、此方は実演の為か熱の帯び方が少々違う様である。リハで難航した序奏部は、本番演奏に於いて過度の緊張度に表れる。とてもピリピリしており、聴いていても息が詰まる程である。余談だが、この交響曲は、実は演奏に対し、相当の合奏能力を求められるので尚更かも知れない!だが、一つひとつをクリアしていく事に少しづつ気が晴れる様に楽員が安堵する様子が伝わる様である。其れから第1主題に移行するが、此処で、ようやく開放と言う訳にも行かない様だ!しかし巨匠特有の強剛な造型、即ち質実剛健な造型に美を感じる事となる。主部は快適である。続く第2楽章も音が、キリッと立っている。此処でも厳く何の遊びも無い音楽が、極めてしっかりとした足取りで進んで行くが、随所にウィーンフィルならではの美感をようやく感じる事と成る。最初に聴いた時は、演奏の呼吸が浅い感じがしたが、其れは演奏精度に対して極度の緊張を奏者が強いられたせいだろう!しかしながらこの手の演奏は、現在では皆無に成ってしまった。第2楽章は、楽想にもよるのか演奏が進む事に呼吸が深く成る。其処にウィーンフィル特有の優美な高弦の響きが乗るのだが、其処が良い!だがフォルテは、強剛である。第3楽章も実は難しい楽章で、リズムは作曲当時としては複雑で、舐めて掛かると痛い目に遭う!此処では指揮者の明確な指示と造型感覚がものを言うが、巨匠は、其の点では流石に明快で、安心して聴く事が出来る。だから終楽章も見通しが良い!硬質な響きだが、推進力も在るので其れなりの熱っぽさを感じる。其の点は、流石に実演であると言えるだろう!そして堂々たる終止部を迎える。次は、ストラヴィンスキーの「火の鳥」組曲である。これは、3月17日に収録された。会場は、勿論、NHKホールである。序奏は、此方の緊張度の方が、やはり上の様だ!まだ厳しいリハの余韻を感じる。神秘性も透明度も鋭敏な響きで助長されている。火の鳥と其の踊りも素晴らしく、幾分温和に成った22日の演奏とは、嘘の様に研ぎ澄まされた音楽を聴かせる。火の鳥のヴァリアシオンも引き締まった表現である。此処では。巨匠の近代性とウィーンフィルの優美さが、上手い具合に調和しており、リリシズムさえ感じる程だ!情感も強いが、バランスも知的に保たれている。カッチェイ王の魔の踊りは、冒頭のフォルテシモから衝撃的だ!そして主題が飛び交う様は、とてもスリリングでもある。嘗て巨匠と言えば、前衛との認識がある古い音楽ファンには、ピッタリの演奏で、是でこそ巨匠と言えるだろう!此処は、リハの印象通りの衝撃がある。子守唄は、22日の演奏の方が妖艶だが、寸分の隙も無いのは、やはり此方だ!終曲の強剛な造型も文句の付け処が無く最高である。私としては、此方の演奏を推したい!心なしか録音も同じ放送スタッフの筈なのに音質も音像もシャープに捉えられており巨匠の音楽性が明確に伝わる。是は、本放送時に映像として放送されたのだろうか?現在、発売されているDVDは、放送用の2吋テープが残念ながら現存しているものは殆ど無く、記録用に残した1/2吋のビデオテープからDVD化されているので期待するのも無理な話かも知れない!それと商品化の際に映像と音声テープを同調させる時に巨匠の棒と音のタイミングが、アインザッツに対して疑問も在るので、其の点も改善出来ないものかと思うが、発売された事だけでも感謝すべきだろうか?

0