Plydor Japan MG1226 LP
巨匠のチャイコフスキーの第6番交響曲だ。副題は「悲愴」として知られる。楽団は、ロンドン交響楽団で、1978年12月21日、英国ロンドン,ウォルサムストウ.タウンホールで収録された。この交響曲は、ドイツ系の指揮者には割と評判も良く、演奏会でも得意のレパートリーとしている人も結構居るが、それを巨匠が振ったとなれば、販売当時は何故か珍しがられて、同郷のカラヤンやドイツ出身のフルトヴェングラーも十八番の曲なのにと不思議に思った程だ。さて副題の言葉の解釈は、ひとまづ置くが、その演奏は 新即物主義者の指揮者ならではの分析的なものだ。その為にスッキリとした様式美が特徴でもある。なので聴くべきものも当然ある。ちなみに副題にある「悲愴(патетическая)」 は、語訳では悲愴としているが、これは悲壮ではなく、表情が豊かな事を表している。だから多彩な演奏も期待されるが、巨匠のアプローチは、とにかく譜面にある情報が頼りだ。なので改めて原典に振り返ると、どんな表情が見えてくるかを聴くべき演奏なのかも知れない。それでは順を追って聴いてみよう。第1楽章は、Adagio - Allegro non troppo - Andante - Moderato mosso - Andante - Moderato assai - Allegro vivo - Andante come prima - Andante mosso と随分と細かいが、それだけに楽団にも指揮者にも繊細な感情表現が要求される。此処から本題だ。針を下すと作曲家本人が語ったように、まるでレクイエムみたいな暗い序奏部がなのだが、慎重な趣きでも重くなり過ぎないので、すんなりと進む。主部の第1主題に基づいたヴィオラとチェロの合奏の部分でも出来るだけ精密に構成して行こうと各パートの奏者も気を遣っているのが解る位だが、此処でも造型がきっぱりとしている。この辺だけでも巨匠がこの曲をどう考えているかと興味深く聴ける。それとこの部分のリズム感も四角四面ではないので、曲がよく流れる。提示部の第2主題は、3部形式だが、その前の木管と弦のやり取りは小さなドラマを見る趣きがある。その後は大波小波でもないが、音の引き返しも沸々と湧き上がる感情には情熱も感じられる。ffの全合奏でいきなり始まる展開部は、アレグロ・ヴィーヴォで強烈で劇的な展開だが、そこでは感情の嵐でも見通しは良く、遥か彼方までの風景を見るような処がある。感情に任せて急速なテンポを取る事もないので落ち着いて聴ける。再現部からクライマックスの頂点に達する時点でも土台がしっかりしているので誠にスケールが大きい。第2楽章は、Allegro con grazia と複合三部形式で、ニ長調だが、4分の5拍子と言う混合拍子でのワルツは、スラブの音楽の特色でもある。だがあくまでも譜面から曲を探っている巨匠なれば、素直に楽曲の持つイメージが現れる。厚い響きだが、カラヤンのように濃厚ではない。なので本当の意味で優雅である。此処でもしっかりと曲を構築して行く。流れも良い。ロンドン交響楽団も好演である。聴いていると何処までが巨匠で、何処までがロンドン交響楽団かと思う程にチャイコフスキー全開だが、とにかく楽曲が素直に耳に入る。だから聴いていても特に不満はない。さて第3楽章は、Allegro molto vivace である。スケルツォと行進曲(A-B-A-B)との構成になっておりト長調だ。この曲を聴く時は、この楽章にひとつの拘りを持っているような人も居るだろうが、そのスケルツォも12/8拍子と快適なので、巨匠のリズム感に対して最初にこのレコードを聴いた時には一番の感心事だったのを思い出す。「あれっ?」と言う位にサラリと始まる。そして気がついた時には曲のど真ん中みたいな印象だが、とても勢いがあり、巨匠もこの収録時には若かったと録音年代を思わず見返す。そんな演奏だ。そのスケルツォ部分は快適だ。各主題もクッキリと形を現すが、これぞ明確の極みとも言いたくなる位だ。それから4/4拍子の行進曲に力強く以降するが本当に逞しく、巨匠の男性的な音楽が満喫出来る。気になるテンポの動きだが、あまりにも流れが自然過ぎて気がつかなかった。終始部も変な溜めもなく終わる。第4楽章は、Finale. Adagio lamentoso - Andante - Andante non tanto である。この楽章を聴いて「悲壮」だと解釈する人も居るだろうが、此処でも巨匠の音楽造りは見通しが良い。慎重なのに神経質ではないので聴きやすい。なのに曲の表情はよく伝わる。膨れ上がる感情の高揚も斯くやだが、とても現実的な音楽が目の前にある。そこで情熱的なクライマックスを迎えるのだが、そこまでの経緯がドラマティックである。沈み込んむような終始部も様式観がある。此方もロンドン交響楽団の代表盤だ。

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