Kinng London MX 9024 LP 1978
伝統と言う言葉が在るが現在に於いては、どこ迄保持されているかと言う事になろうか?音楽では、ウィーン情緒が真っ先に浮かぶ人は余程ウィーンフィルのファンだろうが、私もそうである。強引な話題の引っ張り方で申し訳無いが、今やインターナショナルと成った現代では、伝統を守るのは大変な事である。巨匠が、英.Deccaに録音を開始した頃は戦後の痛手は在ったものの古き良きウィーンは健在であった。同社は特に録音技術に卓越していたので多くの名盤を作り、忠実な音色はファンを喜ばせた!Deccaの録音に聴かれるウィーンフィルのハイ・トーンは事実素晴らしい!それはモノラル期に於いても万全で在ったので尚更である。これで十八番の曲が聴ければ言う事無しである。ここではシューベルトを紹介しよう!曲は未完成と呼ばれた第7交響曲である。だが我々世代では、第8番と言うのが自然である。収録は、1954年である。さてこの演奏だが、一聴した感想は正にウィーン気質其の物である。こう言う感覚的な事に説明は要らない!耳を澄ませば聴こえてくる。鮮明だが古風な音が素晴らしい!巨匠の演奏は例の如く重いが、それを包み込む音色に何とも言えない情緒が在る。ツーンと響くウインナオーボエも良いが木管の素朴な色彩感も良い!それはウィンナホルンも然りである。だが第1楽章は、構成重視の巨匠らしく慎重に演奏は進む!しかオ内部で燃える感じが良い!いざと言う時の凄みの在る響きは曲想に一致している。どちらかと言えばドイツ風だが楽団の特色が、それを和らげている様だ!第2楽章は正に独断場である。何とも言えない暖かい響きに包まれる感じが良い!ここではウィンナホルンが常に物を言う!雰囲気も満点である。低弦部もしっかりしているので、とても安定している。沈み込む様な深い表現も良い!今ならもっとシャキっとするだろうが何と無く眠い感じと言うか田舎っぽい感じがキる。ここでも内部の燃焼度は高い!そして哀愁を残し曲が終わる。カップリングは、ベートーヴェンの第8交響曲である。これも十八番だ!だが終始ウィーン風とは言えない様だ!出だしは流石に明るいが流麗とは言えない!巨匠らしい骨太のベートーヴェンである。しかし演奏は後の全集より実が在ると言うか実在感が在る。収録は、1953年である。ここでも内部に燃える炎は熱い!時に激しい響きが聴かれる。第2楽章は素朴である。だが楽団任せでは無く構成面で巨匠の目が光っているのが解かる。敢えてウィーン風と言うのなら第3楽章だろう!これはウィーンの町をスケッチの様に書かれた楽章だが、その情景描写が素晴らしいからである。途中のウィンナホルンは、郵便馬車を模倣したものだが、それが如何にも優雅にのんびりと演奏されていて、ここだけ聴いても、この演奏の価値は在るかも知れない!終楽章も特に変わった処は無いが、やや楽団主導の処も在る演奏だ!全曲を聴き終えた感想だが、別に非の打ち処は無いが、この曲特有の洒落っ気が薄いのが残念である。

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