Toshiba EMI EAC-40210 LP
まだザクセンと言う名称だった頃のドレスデン・シュターツカペレのレコードである。収録は、1941年なので、まだ78回転盤だが、日本では、このレコードが発売されたかは不明だ。だが時代から判断しても発売されたとは信じがたい。所謂SPレコードも末期で既に完成されていたと見ても良い時期なので音質は鮮明だが今1つ冴えない感じがするのは、緻密で繊細な特色の在る楽団なので音色が捉え辛かったと見て良いだろう。この楽団の真価が知れるのは、やはりLP期からだと思う。質実剛健な面が強調されるのは、その様な技術的な面が在る事は否定出来ない。さて演奏だが,このレコードは録音年代が古いと言う理由だけでロクに批評もされない演奏である。たぶん知らない人も居るだろう。それは、巨匠死後のレコードセールスが悪い事も在るが、DGGの国内盤CDに限って言えば、発売当初からデザインが悪く購買意欲を低下させたのも要因に当たるだろう。レコードもそうだが本でも表紙を見て消費者は買うものだ。アナログ盤のCD化に関して言えば、DGGは欧州では、オリジナル・デザインを尊重するが、何故か日本は独自デザインだった。ベーム・オリジナルスが発売された時は、もう遅かったと言う事だ。誰がデザインしたものか知れぬが酷い物である。これは、たぶん、ファンを甘く見たと推察するが、馬鹿にしたものである。巨匠ファンに関わらず音盤マニアは、オリジナルを尊重するものである。ジャズが良い例だ。日本のメーカーは独自企画が多いが足りないとすれば、それはセンスである。本国は、クラシック音楽のメディアに対しては理解者が少なく誤解が多いのも事実である。まあ、これは脱線したが、消費者に対して努力が足りないと言うか、好きな演奏なら、どんな売り方をしても売れると消費者を舐め切った販売をしていれば、「そりゃあ、売り上げも下がろう」と言うものだ。現在は、テレビドラマ「のだめカンタービレ」の御蔭で今の処は光が当たっているが、その時にまずメーカーが考える事は、どう波に乗り続け売り上げを伸ばしていくかだ。クラシック音楽ファンは、メーカーが思っている以上に専門家である事を念頭に入れて欲しいものである。それは、ジャズ・ファンも同様だ!私見だが、その点では、ジャズのオリジナル思考の販売と比べ、些かクラッシックは劣る様だ。さて本題である。
このレコードは、1979年に独逸エレクトーラ社の独自企画で巨匠の85歳を祝って発売したものである。本国では、20LP全4集でザクセン(ドレスデン)シュターツカペレ時代の録音を集大成したが、日本では全部は発売されず、追悼盤として発売されたのはファンの思い出だが、後に新星堂がCD化したものでようやく全容が知れたと言えるだろう。針を降ろすと実に精妙な響きが聴こえてくる。同時に造型が確かな事に気付くが印象は寧ろサッパリしており流動的な勢いを感じる。復刻によってダイナミックレンジが狭くなった感じの音だが癖は無くSPレコードを聴いている雰囲気は充分である。真摯に迫って来る演奏は、曲が進むにつれ序々に熱気を帯びてくるのは好ましい。展開部も熱く嵐が吹く様である。細かいテンポの動きも在り、意外に表情的だ!どんどんうねりを増す雄弁さも在り強い響きは、正に独逸のベートーヴェンである。この曲に関して言えば後年の演奏を先取りしている処も在り、解釈としては既に造型が完成されていた様である。第2楽章である。ここでも無駄の無い簡潔なリズムが全体を支配しているが更に熱気を感じるのは若さ故か?それにしてもリズムのしっかりした演奏だ。全てが一体となった充実感も在る。ここでは木管も素晴らしくホルンも味が在ってアンサンブルも見事である。主部のテンポは駆け抜ける様である。第3楽章は素朴そのものだ。それは楽団に余計な色が無いのが、その要因だが巨匠自身も不純物の無い演奏を心掛けているのかも知れない。ここで巨匠が若き日に新即物主義の洗礼を受けた音楽家で在る事が解るが、自身の演奏スタイルに共通点が在るのか無味乾燥に至らない音楽を聴かせる。それは響きの暖かさに表われている様にも思える。終楽章である。どっしりとした響きで始まる冒頭は巨匠の刻印に聴こえる。歓喜の主題による前奏部も実に堂々とした進行である。これぞ質実剛健と言える。ヨーゼフ・ヘルマンの「O Freunde」だが、これは今と成っては古い歌唱法に聴こえるのは仕方在るまい。これは、クルーン唱法であろうか?日本では藤山一郎が、正にその様な歌い方だったので余計にそう思う。だが丁寧な歌い方で好感が持てる。女性陣では、マルガレーテ・テシェマッヒェルの美声が目立つ、エリザベート・ヘンゲンは癖が強い。さて最初のテノールが入る迄のマーチだが、ハッキリとテンポが遅いのは、巨匠特有の解釈である。この箇所について晩年の演奏で時に巨匠は力尽きてテンポが遅いと批評する批評家の意見が在るが事実無根である。これは巨匠の解釈で各盤とも共通するので誤解せぬ様にして頂きたい。テノールは、トルステン・ラルフだが、溌剌さが足りない!だがアンサンブルとしては問題は無い様だ!合唱団は絶叫せず歌っているので聴き易い。そしてそれなりの盛り上がりを見せて曲は終えるが、コーダも節度が在りバランスも良い。この時代に在っては模範的な演奏と言える。基本テンポは速めだ。

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