Polydor Japan POCG-2688/90 (427 444-2) 3CD 1992
「ドン・ジョヴァンニ」である。正規販売の実演盤の物では、この1977年のザルツブルク公演の他に1955年にウィーン国立歌劇場が再開された時のCDがRCAから出ただけである。以外の物は全て海賊盤である。ミルンズが、題名役のこの盤は、上演時の複数音源から編集された演奏なので完璧だが、ドキュメントとしては成り立たないかも知れないが、商品として確立させる為には仕方が無い処置である。DGGのザルツブルクの実況盤は、3年前の「コジ・ファン・トゥッテ」が在るが、集中力は、こちらの方が勝る様だ!それは序曲を聴いても明白なのだが、勢いが凄く凝縮された造形美が、この作品に限って顕在だからだ!特質的に巨匠に在っている音楽かも知れない!やはり実演では全く違う表情を見せる。購入当初、年代的にも枯れた演奏を予想して聴いたが的外れで驚いたものだ!ティンパニーの最強打も圧倒的である。幕が開くと遅めのテンポに成るが停滞はせず、しっかりした足取りで指揮をする演奏に風格さえ漂わせるが、歌手達の歌い崩しも無いのにドラマティックな歌唱を聴かせ見事である。ウィーンフィルの強剛ながらしなやかなで、時に歌に絡みつく伴奏は艶めかしい!歌手もベストに近いと思う!ワルター・ベリーのレポレロも要所を抑えており主役を食う程の名唱を聞かせる。「カタログの歌」も見事だ!アンナ・トモア=シントウのドンナ・アンナも役柄に合った声で抵抗が無い!風格も在るので第13場の「今こそ御分かりでしょう」と歌うアリアも堂々としており、激しい緊張と強い意志を感じさせる。気高い雄弁な伴奏も巨匠ならではだ!ペーター・シュライアーのドン・オッタヴィオも10年前の旧盤よりも調子が良い!シェリル・ミルンズのドン・ジョヴァンニは、とても気品が良く正に貴族である。フルトヴェングラー盤で聴けるシエピにも匹敵する程だ!プラハ盤よりは、ずっと完成度が高い様に思える。確かにプラハ盤は、アリア1つずつ聴くには問題が無いのだが、何故か繋げると統一性に欠ける様だ!だが、この実演盤も細かく言えば、リズムが硬直してるだの色々と在るのだが、不思議と欠点には聴こえず、重いリズムもスケール感が増す要因に成っているのは熟練故か?とも思う!腐っても鯛じゃないが、老いても巨匠と言えるだろう!他の歌手も特に問題は無く、役の枠内に納まっている。毛色の違う者は居ない!第1幕は、そんな処だ!当然、第2幕も安心して聴ける。時に天からモーツァルトが舞い降りた様な美しさも在り、そんな天衣無縫の演奏が出来るのは巨匠位だと感心してしまう!ドンナ・アンナが歌う第13場のアリアが正しくそうである。それとドン・ジョヴァンニ邸宅で行なわれる晩餐会だが、会場のBGMを勤める楽士達の演奏が実に楽しい!ベリーのレポレロも面白い!そこに騎士長の亡霊が現れるが、ここからの緊迫感が素晴らしく、手に汗握ると言う表現が適切で、阿鼻叫喚とも言える怒涛のオケの響きに圧倒される。明らかに巨匠が演奏で若返ったかの如く瞬発力も物凄く、地獄落ちするドン・ジョヴァンニの形相さえ見える程である。そして最後の救済の6重唱は聴く者の心も救われる。このシーズンの演奏は、嘗てNHK−FMでも放送しているがORFに映像でも残って無いかと思ってしまう!そう思うのも1966年のフィガロが現存しDVD化されたので尚更である。

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