ORFEO D'OR C 608 032 B 2CD 2003
批評家の宇野功芳さんが実際にザルツブルクで聴いた演奏会だそうだ!これは、1971年のザルツブルク音楽祭の公演をORFが収録したものである。曲は、エミール・ギレリスの独奏に伴奏を務めたベートーヴェンの皇帝協奏曲と巨匠としては珍しいチャイコフスキーの第4交響曲である。この年は、宇野功芳さんが言うには最後の全盛期である。そう言えば、バイロイト公演の参加もしており、そこで振った「さまよえるオランダ人」も今や語り草である。チェコ・フィルとの共演は珍しい印象を受けるが、何の制約も受けずにフリーで世界を動き回っていた頃だけに色々な楽団も振っているので、そう不思議がる必要も在るまい!講釈は、これ迄として皇帝協奏曲から聴いてみよう!華やかに始まるが品が在り、しなやかな印象を受けるのは、アンチェル時代のチェコ・フィルのアンサンブルが如何に優れていたかが解かるが、安定した基盤を持つ楽団に対し強剛な造型で演奏に取り組む巨匠の音楽は、やはり素晴らしい!色彩感も品性が高い!当時のギレリスも技巧にスケール感が乗った時期の演奏なので、エレガントな音色に奥行き迄感じさせ見事である。第1楽章は、特に素晴らしく、正しく王道を歩く印象が在る。勿論、ギレリスも只、エレガントなだけでは無く、時に聴かせる鋭さは、演奏にアクセントを与えている。第2楽章は、アダージョなので情緒豊かな演奏を期待する処だが巨匠の手堅い伴奏の中で弾くギレリスの澄んだ表現に感銘を覚える。丁度良いバランスで節度を保っている感じがする。過度に感傷的に陥らないのが好ましい!それでも情感に不足は無い!終楽章は、何か手探りに始まる様な即興的な処が在るが、それも実演ならではと言えるだろう!だが最後迄、頑固な造型に支えられているので決して上滑りする事が無いのも良い!ギレリスも安心して弾き切っており、個性を消す事無く楽曲に奉仕している点が素晴らしい!尚、余白には、リハーサル時の録音が収録されており興味深い!さて次は、DGGでロンドン交響楽団のレコードが発売された時に面食らったファンも居たであろうチャイコフスキーの第4交響曲である。冒頭のファンファーレは力強い!スコアの読みが深いのか表情の細かい演奏だが、実直な表現であり、曲の本質をスコア上から眺めた感じがある。その為か楽想の表現が適切であり、過度なバランスで表現される事は無い!しかしながら実演の為かボルテージは、やはり高い事も事実である。オケの響きは、理性的な前者の協奏曲よりも有機的である。巨匠は生前、弦より管が物を言うと言われたが、この曲は、性格上それが強い事も在り、特色がハッキリ伺える。第2楽章も折り目正しいカンタービレが特色と言えるだろう!毅然に目的を達成する趣きがある。しかし情感が頂点に達する時には、巨匠の情熱を感じさせる。続く第3楽章は、軽快で、走る様なリズム感が印象的で、まるで音が見える様である。終楽章は、炸裂する花火の様で華やかだ!それと実演ならではの熱気が伝わる演奏である。これは、巨匠の個性とチェコ・フィルの特性が、相乗効果を齎した適例であろう!

4