DGG 2740 205 3LP
これは、1967年、初演の地、プラハで録音された。幸い収録時の記録映画が残されているので、それを見た感想から述べよう!それは、リハーサル前の場面から始まる。次に出演者の紹介だが、国際的なメンバーである。巨匠がインタビューで今回の配役はドラマティックな表現を目的に選んだ理想的な組合せとの証言が在った。この配役は常に異論の対象なので興味深い!そして本番の後にスタジオでチェックをしている。ここを見てると巨匠の考えも解かろうと言うものである。テンポと音階について細かい指摘をしている。巨匠は、そんな基本的な事しか言わないが、これが職人肌と言われる由縁だろう!それはリハでも同様である。余程上手く行っているのか、プレイバック中は珍しく笑顔が見れる。合間にプラハの観光も紹介されるが、この土地に縁の在る音楽家の足跡や歴史も述べるので興味深い!フイッシャー=ディスカウのインタヴューも在るが、巨匠の棒の下で歌った始めての役がドン・ジョヴァンニとの事である。なので、レコーディングは決して珍しい役では無く、持ち役で在った事が解かる。巨匠は彼を絶賛している。そして延々とリハの場面が続くが、巨匠の指示は的確である。ニルソンのインタヴューでは、自身の声が本当にモーツァルトに合うのか疑問を持っていたが巨匠の指導の下、自信を持ったと言っていた。しかし苦労も在る。第2幕第11場の死んだ騎士長の登場場面をどう音で表現するかである。ここでは副指揮者に振らせて巨匠がバランスチェックをしている。これは念密を極めた様である。さて地獄落ちのリハである。ここでもリズムと音階には厳格である。ここではアクセントにも厳しくアウフタクトのチェックも万全だ!進む毎にどんどん凄い音になる。これで上手く行かない筈が無いと言うリハであった。最後にフィナーレを省略する演出に対してどう思うかと興味深いインタヴューが在った。そこでマーラーの解釈に触れていたが、作品の性質上、前向きな姿勢が不可欠で在る事からフィナーレは外しては成らないとの見識を巨匠が持っていた事が解かった。
さて、本番では、どうなったか聴きものである。序曲である。割りと品良く始まる。打楽器が遠い録音バランスも原因だ!プラハ国立歌劇場のオケが良い音を出す。特に弦楽器の渋めの音が良い!全体に気合の入った演奏だ!幕が開くとレポレロの一声だがエッィオ・フランジェロは落ち着いた声である。ニルソンのドンナ・アンナの声はリリカルだがピンと張り詰めた緊張感がある。騎士長のタルヴェラは風格豊かだ!ディースカウのドン・ジョヴァンニは品が在る。ドン・オッターヴィオはペータ・シュライアーである。ニルソンとの声の共演は素晴らしい!レシタティーヴォの間も良い!ニルソンはリリカルなだけではなく凄みもある。復讐のアリアも最高である。さて次はエルヴィラを歌うアーロヨである。最初は緊張気味である。レポレロのカタログの歌はフランジェロの独断場だ!オケの色彩溢れる伴奏も良い!マゼットはアルフレート・マリオッティである。声の重さが気になる。ツェルリーナのレリ・グリストは良い!第1幕は、そんな感じである。それにしても巨匠のリズムの切れは最高だ!どんな場面でも切り込んでくる。第2幕である。レポレロとジョヴァンニの掛け合いは卆無く始まる。次に聴かれるエルヴィラのアーロヨは良い!余裕の在る歌声だ!ここで本領発揮と言う処だろう!ディースカウのドン・ジョヴァンニは毒が無いと言われるが窓辺の下で歌われるカンツォネッタは見事だ!それは第4景のアリアも同様である。次はツェルリーナのアリアである。清楚な声だ!グリストは念入りに歌っている。シュライアーのオッターヴィオのアリアも美しい!軽やかさが足りないのは残念だが!さて問題の騎士長の像が話す場面である。曇った音で騎士長の声が聴こえる。だが音響処理は録音会場のアコースティックを考慮して音そのものは弄らないので、とても自然だった!これはホールの隅で収録した音だ!そして朗々と歌うニルソンの後は晩餐会である。堂々と始まる。音楽を奏でる楽師は国立歌劇場オケの木管である。上手いが自発的なアンサンブルに聴こえない!巨匠の厳格さが裏目に出た様だ!残念ながら楽しくは無い!ここを品性が高いと聴くか、物足りないと聴くか評価は分かれるだろう!しかし地獄落ちの引き締まった表現は巨匠ならではだ!騎士長登場は打楽器がマイクから遠いのが迫力不足を招き残念だ!タルヴェラがオン・マイク過ぎるのも気になる。音楽は真剣そのものなのが救いか?管楽器は壮絶に響き地獄落ちは終わる。フィナーレには希望が聴こえる。巨匠の言う前向きな姿勢だ!救済の響きとは、そう言うものか?そして堂々と幕が閉まる。

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