Victor Japan VD-8108 wax.2RA3084/2RA3085 78rpm
巨匠のSPレコードだが戦前の日本では、知名度の点でどれだけ売れたのかは不明である。確かにブルックナーの交響曲をハース版で初めて録音したのは巨匠の功績だが現在の感覚と比べ、そう簡単にクラシックのレコードが買えた時代かと言うと疑問が在る。当時は、庶民がクラシック音楽を聴く程の民度の高さも無く、況してや現在に於いてもクラシック音楽ファンの層は限られるからである。それ程、このジャンルには、在る種の高級感が在る。高々音楽と言うが、されど音楽である。だからバブル期にオペラ・ブーム、クラシック・ブームと言われた時期も在ったが、実際の購入層が、どれだけ拡大したかも疑問が在る。確かに近年の「のだめカンタービレ」のブームは認めるが、所詮其れも一時的な事だろう!話は戻るが、戦前に於いては、そのレコードの値段も高く、そう手頃に購入出来る代物では無かった!依って実際に購入出来た人は富裕階級か音楽に関係の在る家柄の人位である。事実、再生装置である蓄音機も現在では、高級車一台を購入する感覚だったので尚更である。其れでも卓上型等の所謂ポータブル型の機種が登場してからは普及の度合いが変わったが、メーカー品は高く、下請け会社みたいな処が作った廉価商品が最も普及した。だが其等の蓄音機で聴かれるのは、流行歌や演芸のレコードが大半である。米若や虎造に唸った方も御居でだろう!だから日本に於いては、クラシック音楽が本当の意味で広く聴かれる様に成ったのは戦後、其れも高度成長期の事である。三種の神器と言う言葉が在るが、これは元々は、天孫降臨の時に、天照大神から授けられたとする鏡・剣・玉を指し、日本の歴代天皇が継承してきた三種の宝物の事だが、それが家電の三種の神器と揶揄されて新時代の生活必需品として宣伝された。当初は、白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫の家電3品目で在ったが、ステレオも其れに準ずる物として解釈されていた。高級=クラシックと言うのも時流に在っていた。庶民が、クラシック音楽を聴き易い環境が整ったのは、其れからである。思えば庶民向けの音楽教室に子供を通わせてピアノやヴァイオリンを挙って習わせたのも其の時代からとも言えるだろう!さて、このレコードだが、収録は、1938年である。当時は、HMV原盤のレコードは、日本ビクターと日本コロムビアが契約上振り分けて発売されていた。流れる様な演奏だが流麗では無い!其れも早過ぎて素っ気ない印象を受ける。聴いていると若き日の巨匠が、カール・ムックに「君は、ワーグナーをポルカの様に指揮をする。」と評された言葉を思い出させる。盤面を拝見するとリードアウト寸前迄、収録されている。これは、SPレコードの頃は、よく在る事で、つまり少しでも長い時間、収録しようと努力した訳だが、ピッチの点で疑問が残った。すると音階が全体に高いのに気が付いた。どうやら表記にある78rpmは偽りの様だ!そこで音階がまともに聞こえる迄ピッチコントロールで下げてみたら76rpmで正常なピッチに成った!意図的に回転数を落としている様だが、是も収録時間の都合かも知れない!SPレコードを収集してると色々な発見が在るが、復刻盤では、知るよしも無かろう!回転数を正常にして聴いてみると演奏が見えてきたが、重厚に印象が変わった意外は、然程変わらない!表情は、ゴツゴツしておりソリッドスティートな感じだ!リズムもズンチャッチャと言うよりは、ドンチャッチャと重い!是ほど鈍重な演奏も稀だろう!レーベルを見るとザクセン・シュターツカペレとの表記が在るが、これは現在のドレスデン・シュターツカペレである事は説明するまでもなかろう!


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