Polydor Japan G-MG2299 LP
巨匠は、蘭,フィリップスに同曲を1956年に録音しており、迫真的な旧盤も素晴らしいが、再録のウィーンフィル盤は、更に内容を深めたもので、此方を名盤扱いするのが、市場でも一般的な見解だと思う!しかし現在に於いては、演奏スタイルの点から些か古くなった感も在る。だからと言って、この盤の価値観が変わる訳では無いのだが、便宜上前置きしておこう!このレコードを評する時には、遅めのテンポで風格豊かとされていたが、実際に聴いた印象では、まあ順当なテンポだと思う!旧盤と違うのは、演奏の呼吸が、より深くなった事で、思えば其れが遅く感じる原因だと思う!収録年は、1971年4月13〜14日、会場は、ムジークフェラインザールである。旧盤から15年後なので、巨匠の年輪から来る変化も在って当然だろう!因みに独唱者は、エディト・マチス(S)、ユリア・ハマリ(A)、ヴェィエスワフ・オフマン(T)、カール・リッダーブッシュ(B)である。合唱団は、ウィーン国立歌劇場合唱団である。さて感想だが、入祭文は、以来から遅いと指摘されていたが、改めて聴き返してみると然程遅い訳でもない!明確なアプローチは、いつもの巨匠の音楽造りである。キリエの荘厳な感じも素晴らしいが、エディト・マチスの清純な歌唱も曲の純度を高めていると思う!男声合唱は、緊迫感を示し、混声合唱と成るとより壮大さを増している。しかし音楽が、決して濁らないのは見事だ!続誦に移り「怒りの日」は、早目のテンポで畳み掛ける。此処でも巨匠の明確な指揮が曲の持つ意図を明らかにして行く!「奇しき喇叭の音」は、カール・リッダーブッシュの引き締まった歌唱が、曲の持つ遊牧的な雰囲気を簡潔に表し絵が浮かぶ様である。他の独唱者達もパート事の役割を的確に示している。「御稜威の大王」は、合唱が正に絶唱と言うべき魂の訴えを音化しており、強い衝撃を受ける。「思い出し給え」は、素朴だが美しい表現で、それは、四重唱も同様だ!聴いていると心が洗われる思いがする。「呪わせし者どもを罰し」でも根底に在る巨匠の音楽観が、本当にものを言っている表現で、厳格な中にも迸るエネルギーの発散が、光を放っている様だ!「涙の日」も厳しい表現だが、其れでこそ巨匠である。聴いていても別段特別な事をしていないが、キッパリとした造型感が、これからも伺える。終止部は、身に詰まされる程である。さて奉献誦だが、「主イエズス」から流れる様に早目のテンポで処理されているが、これは正解である。前半の重さを引き摺る必要は無い!合唱団のハーモニーも美しい!「賛美のいけにえ」の合唱は、慈愛に満ちたもので、訴いかけも強い!天を見つめながら祈りを捧げている様だ!フーガも力強い!それは、「聖なるかな」の荘厳かつ壮大な合唱も同様である。「祝せらせ給え」の四重唱も、とても有機的で、まるで曲が一本の太い線に集約されている様だ!「神の子羊」と「聖体拝領誦」も巨匠ならではの強硬だが均整の取れた造型が、やはり根底に在り、一点も揺るがせにしない姿勢が音楽に現れている。そして終止部で、全てを集約し開放する。聴き終わると、途轍もない充実感を味わえる演奏だ!この盤だけでも巨匠の代表盤として掲げても良い位である。硬派のモーツァルトが聴ける。

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