Polydor Japan MG 9801/9 9LP 1973
第4交響曲である。シューマンが、この曲を評して「北国の巨人に挟まれたギリシャの美女」と述べているが、此処で評された北国の巨人とは、3番と5番の交響曲の事であるのは、曲のイメージからも感じ取る事は可能である。さて、この録音も1972年の9月10〜18日に掛けてウィーン・フィルと共に一気呵成に収録した曲目のひとつである。この曲は、オケの腕自慢としても実は重要な扱いを受けるが、其れと同時に指揮者の構成力も問われるものだけに巨匠が、どの様な解釈で取り組むのかが気に成る処だ。思えば、1975年のウィーン・フィルの来日公演でも取り上げている曲なので比較してみるのも興味深い。だが神妙に始まる序奏部は、実演程では無く弦の音にも優しさが感じられる。第1主題への受け渡しもスムーズである。主部も堂々としており何よりも風格を感じる。響きの何処を取っても軟弱と言う言葉は要らないのも巨匠らしいが、質実剛健な造型も此処では素晴らしい造形美を見せる。適度な緊張感で迫力も充分である。尚、譜面上の繰り返しは全部やっている。第2楽章も同傾向の演奏で安定した進行が好ましい。表現としては、何の変哲の無いものだがウィーン・フィルの高貴な音色は、この曲の地位を高めるのに充分な美演だと思う。時に現れる闘争的な響きも力感に溢れており全てが巨匠ならではの造型に支配さてれはいるが、楽団の特色は充分活かしているので重厚なのに厳しく成らないのは良いと思う。第3楽章も巨匠の造形美が光る。あれだけ複雑なリズムや旋律の交差にもビクともしないのも巨匠の統制が如何に取れているかが窺い知れる。木管によるトリオものどかである。終楽章も是と言う表現をしている訳でなく素朴なものだが、気の衒いが無い分、正直な表現をしていると言えるのでは無いかと思われる。其の為か何の抵抗も無く旋律が耳に入り気が付いた時には何故か圧倒されてしまっている。これは定番中の定番と言える演奏なので、やはり印象も浅いが、此処まで見事な構成的解釈が聴けるレコードもない。評価もそこが分れ目だろう。楽団の名が矢鱈と出る文章になってしまったが、それ程、この時代のウィーン・フィルは格が違う。本当に現在とは別の楽団のようだ。

1