King-London(Decca) L92C-1730 4LP
これはR・シュトラウスの楽劇「影のない女」の世界初録音だが、小生は、残念ながら、この演奏を聴いても今一良さが解らない。つまり難解なのだ。だが嘗て舞台上演の録画番組を拝見して理解した事がある。1992年の事だった。然も現在の猿翁が三代目猿之助の頃にスーパー歌舞伎調の演出をして上演をしたものである。それはバイエルン国立歌劇場の来日公演だった。その公演は幸いDVD化もされているので改めて再確認をしようと思っているが、演出が余程記憶に残ったのか、自身では自然と基準になったようだ。さて原作はフーゴ・フォン・ホーフマンスタールである。因みにこの作品は完全な上演が難しい作品とされている。この全曲録音に至った経緯は、回想録「私は注意深く思い出す」にも触れられているが、1955年のウィーン芸術週間での演目で、リハーサルが終わった時点で、ウィーン・フィルの事務局長であるヴォービシュ氏から、此処まで配役が揃った事は滅多にないと言うので進んだ企画だそうだ。収録に使われた会場は、楽友協会大ホールだが、これまでのEMI系レーベルとは趣きが違った明瞭な艶かしい響きは、流石、英国DECCAレコード特有の良さがある。配役は素晴らしい。ハンス・ホップ(T)が皇帝、レオニー・リザネク(S)が皇后で、エリザベート・ヘンゲン(Ms)が乳母、そして、クルト・ベーメ(Br)が伝令使で、エミー・ローゼ(S)が、しきいの護衛者である。更にカール・テルカル(T)が、若い男の幽霊で、ユディト・ヘルビッヒ(S)鷹の声、ヒルデ・レッセル=マイダン(A)が、天上からの声で、パウル・シェフラー(Br)が、バラックである。そしてその妻が、クリステル・ゴルツの面々で、殆どオール・ウィーン・キャストと言っても良い位だ。だが全曲聴き通すと意外と流動性に乏しく耳には厳しい。元々難解と評価された作品なので、余計にそう感じるのかも知れないが、確かに演奏は精妙で、これ以上の完成度の全曲録音はあるまいとは思うのだが、聴いていて心が沸き立つものがないのだ。しかしそんな見解は勉強不足と批評されようが仕方がない。だが同じウィーンでの演奏も戦時中に録られた断片集の方が、楽曲の見通しが良かった。やはり音楽は旋律が歌わないと進まない。しかしながらこのレコードは、オリジナル盤で聴いている人の感想を他のブログで拝見すると、やはり名盤のようだ。つまり音楽も事大主義に支配されている。特にクラシック音楽は、その傾向が強く、数々の名盤もコマーシャリズムに乗りやすい。とは言え、巨匠は元々音楽に対して厳格な一面もあり、「音楽の法律家」と揶揄された人でもある。なので地が出ると気難しい演奏になる傾向は確かにある。たまたまこの演奏も、そうだったのかも知れないが、ステレオ初期の名盤も、これしか当時には全曲録音はなかったので、聖典のように音楽ファンが聴いたのも理解出来る。小生も懲りずに聴いてみよう。おそらく他の音楽ブログでの評価は絶賛だろうが、素直に全曲通して聴いた印象はこれである。とても捻た感想で申し訳ない。思えば同年の独.DGGのベートーヴェンの「荘厳ミサ」も取っつき辛くて馴染むまで時間が掛かった。

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