Polydor Japan MG 2437(2530 411) LP
タイトルには「クラリネットとファゴットの協奏曲」としているが、勿論、別々の楽曲だ。巨匠の協奏曲のレコードは歌劇や交響曲、管弦楽曲程には目立たないのだが、ウィーン・フィルを伴奏に添えて録音をしたものはなかなか良い。なのでもう少しは注目をされてもとは思うのだが、小生が思う程には目立たないのは、やはり残念である。巨匠とウィーン・フィルの組み合わせは何と言うか、適度に力が抜けている処が良い。だからと言ってだらしない訳でもないのだが、上手く調和が取れているのだ。その辺のバランスが感覚として良い。なのでこのレコードもそんな感じだ。最初にクラリネット協奏曲から聴いてみる。独奏は、アルフレード・プリンツである。針を降ろすと前奏部分のオケが、如何にもウィーン・フィルと言わんばかりの気品に満ちた音色で貴族的なんて言葉を形容したくなる。巨匠の伴奏も律儀だ。プリンツのクラリネットも同様の事が言えるが、只優美なだけでは無く、この曲の持っている暗い影の部分も表現しているのは立派だと思う。テンポも快適だ。アダージョも素朴だが、外的に音を磨いている訳でも無いのに旋律が、この上なく美しく歌うのが素晴らしい。(こんな美音は現在のウィーン・フィルでは聴けない)巨匠もプリンツも曲に同化したかの様な親密度がある。批評家が「天上の音楽」と評する楽章なのも頷ける。終楽章も素朴で同傾向の演奏だが久々に聴いて、その美しさに胸がいっぱいになる。そんな心境になったので、裏面のファゴット協奏曲は、少し休んでから聴いた。独奏は、ディートマール・ツェーマンである。こちらは、曲のせいか、とても華やかだ。所謂、ロココ風の曲だが、ファゴット特有の音色が、何かしらユーモアを感じさせて、それはそれで面白いと思う。だが技巧的な曲であるのも確かで、至る処で、2オクターヴ級の音のジャンプが出現する難曲でもある。その点では、ツェーマンの独奏は、万全で、妙技を味わさせてくれる。巨匠の構成力も然りである。アダージョの物寂しさも良い。終楽章も、とても優雅で素朴な演奏だ。一見、相反する言葉だが、事実そうなのだから仕方がない。此処でも巨匠の造形美の確かな事に感心する。手綱は緩い印象は最初は受けるが締めている処はしっかりと締めている。以上の収録は1972年の9月で会場はムジークフェライン・ザールの大ホールである。

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