新星堂・EMI SGR-1213-14 2CD 1996
巨匠の「ニュルンベルクのマイスタージンガ−」と言えば、嘗てバイロイトで独.DGGがレコーディングをする予定であったが、ハンス・ザックスを歌う予定だったワルター・ベリーが神経過敏から声が出なくなるトラブルで降板する事態となり、録音が中止になった事案が在った。その代役はテオ・アダムである。1968年の事だった。幸い巨匠の「ニュルンベルクのマイスタージンガ−」は、ザクセン国立歌劇場の音楽監督時代に第3幕のみ収録しており、録音当時は同曲の全曲盤は存在しないので偉業と言えるだろう。時は、1938年であった。まだ78回転盤の頃なので盤面は15面を要している。面倒な時代によくやったものと感心する。さて此処で取り上げるのは、その復刻盤のCDである。これも「ベーム・イン・ドレスデン」の一環だが、国内盤として存在したのは、このCDが本邦初だとの記憶がある。第3幕前奏曲は充実した演奏だ。幕が始まっても流れは自然で伴奏に煩さを感じないのは流石である。すんなりとマイスタージンガーの世界へ演奏は誘ってくれる。巨匠自身、キャリアの最初はワグネリアンだったと証言をしているが、この演奏を聴いていると曲への共感を感じる。アンサンブルも完璧で歌手達も巨匠の棒に良く答えている。ザックスは、ヘルマン・ニッセンである。風格の在る声は、何の知識が無くても聴けば、ハンス・ザックスだと解かる程だ。ポーグナーのスヴェン・ニルソンは、この幕では余り聴けないのが残念だが威厳が在り存在感も充分である。トルステン・ラルフのヴァルター・フォン・シュトルチングも品格充分で騎士に相応しいと思う。主要な役に於いては特に問題無く聴けるのが在り難い。ドレスデン・シュターツカペレも素晴らしい。さてベックメイサーは、オイゲン・フックスである。これは、ワーグナーと敵対関係にあったハンスリックを模した役で在るのは有名だが、感情の起伏の激しさが「もう少し出ても良かったかな?」なんて思ったりもする。歌合戦の場面も組合連中の入場等聴かせ処ばかりだが、聴いていると合唱団の人数には制限が在ったようにも思われ、些か迫力不足も感じない訳でもない。復刻状態は良好なので音質上は何の不満もないのだが、SPレコードが入手出来れば聴き直したいものだ。

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