RVC Japan Legends of Music RCL-3305 LP 1984
1954年9月29日の演奏である。勿論、実況盤だが、海賊音源なので音質は何とか演奏が理解出来る程度である。歌い手は、テレサ・シュティッヒ=ランダルのソプラノ、マルガ・ヘフゲンのコントラルト、カール・フリートリヒのテノール、ゴットロープ・フリックのバスである。楽団は、フランクフルト放送交響楽団とその合唱団だ!巨匠が丁度還暦を迎えた年だが、ファンにとっては、全盛期の記録で在るだけに興味深い演奏と言える。だが質実剛健で造型を重視する姿勢は、例え実演で在っても何等変わる事は無い!敢えて違いを言えば、気合の入り方だろう!それは、第1楽章を聴いても明らかだが、緊張度の度合いに違いが出るのは実演ならではだ!入魂の一撃とも言えるティンパニーもそうだが、凝縮された内面性の強い音楽である。辺りを払う様な威圧的な処も在るが、その男性的な表現にベートーヴェン其のものを見る様だ!各動機ひとつを取っても一音たりとて意味を持つ有機的な響きも素晴らしい!展開部も精神の嵐である。だが壮大な演奏を求める人には後年のレコードを薦めたい処だ!第2楽章もスタイルとしては同様である。リズムも無骨でゴツゴツしてるが人間味が在り、現在では、こんな演奏も聴けないのは残念である。それは呼吸の浅い演奏家(指揮者)が増えた事の証明でも在る。今に成って過去に揃えたレコードを聴き直して購入時と全く評価が違うものが在るが、何故、評価が変わったかを考えるとハッキリとした違いが在る事に気が付く、それは音楽を全身で表現出来る表現者が減った事だ!そこに音楽に対する精神性や呼吸の違いを実感する。技巧が確かなのは、芸術家には不可欠である。例えば画家の場合、自ら表現したいものを描く技量の無い人は、その時点で失格だ!つまり、それは基本なのだが、その基本だけで終わっている人には、精神性なんぞ無理な話である。問題は、その次が大切である。過去の事ばかりで恐縮だが、あのパガニーニでさえも演奏に遊び心が在り、何でもヴァイオリンで模写して弾けるので、聴衆から顰蹙を買った事も何度も在る。名人とは、得てして、そう言う事である。さて第3楽章だが、暖かく素朴ながら崇高な音楽は美しく巨匠のベートーヴェンに対する愛情を見る様である。造型も確かで実に立派な音楽が聴こえる。終楽章は、炸裂する嵐の様に始まるが、最近は、この程度の演奏でも聴けなくなった!深い響きも聴けない!そこに只、譜面をなぞるだけでは駄目だと言う当り前の事が解かる。だが、この演奏では、その全てが健在なので嬉しく成ってくる。これは、楽曲を愛し作曲家を尊敬した演奏である。ゴットロープ・フリックの詩の内容を大切にした歌い出しに感心するが、他の歌手とて奮闘しており、最初の合唱でさえも素晴らしい向上感である。ここに晩年との差が歴然としており、この時代の実況盤が正規で発売されていないのを嘆くばかりで在る。好きな音楽を直向きに演奏してる進撃な姿勢に頭が下がる。終止部も申し分無い!


0