Polydor Japan MGW5157 (独.DG2544 103) LP
巨匠が古巣のドレスデン・シュターツカペレのオケと録音したものである。収録年は、1957年だが当時の巨匠は、62歳だった。聴いてみると年齢が演奏に関与しているのは明白だと納得できるものがある。巨匠の「英雄の生涯」と言えば、後年のウィーン盤が浮かぶ方の方が多いだろうが、緊張力や推進力について不満を懐く方も居る事だろう。その点では、正に理に叶った一枚だとは思うが、楽団の特質から多少窮屈な印象もあるのも事実である。確かにドレスデンのそれは音色に変な色がない。それは合奏能力が卓越し過ぎているからだが、その上当時の巨匠の音楽性との相乗効果で、より凝縮した表現に厳しさを感じる。これもツァラトゥストラ同様、演奏効果に無縁な演奏だ。さて講釈は此処までとして感想を述べよう。音質はステレオ寸前のモノーラル録音なだけに鮮明だが、その反面に音痩せを感じる。この演奏も初期に近いレコードが入手できたら聴き直してみたいものだ。演奏である。「Der Held (英雄)」は、前奏はなく、いきなり低弦とホルンの強奏で雄渾な英雄のテーマが提示される御馴染みのものだが、冒頭の厚い響きは全盛期の巨匠の造り出す音楽の一面を最も表していると言えるだろう。勢いも相当なもので、それこそ一気呵成に聴かせる推進力では当盤が勝っていると言える。とても律儀にリズムを斬っているので尚更明快に聴こえる。それにしても溢れる音の魅力は、何度聴いても素晴らしい。「Des Helden Widersacher (英雄の敵)」だが、批評家を表現した木管群による嘲笑が意外と表情が豊かで自然に沸いてくる感じが良い。とても精密な統制を取っているのにそれを感じさせないのも良い。「Des Helden Gefährtin (英雄の伴侶)」は、伴侶のテーマを提示する独奏ヴァイオリンが、なかなか味がある。奏者の名は不明だが、表情過多にならずに英雄の伴侶を表現しているのは好感が持てる。然も知性のある女性が現れたかのような印象を与える。それに対する愛情の表現も熱い。カッチリとした造型も、この頃の巨匠ならではだ。その造形感覚が、より曲への見通しを良くしている。「Des Helden Walstatt (英雄の戦場)」は、批評家や頭の難い聴衆との戦いだが、とにかく斬れが良い。劈くような小太鼓のリズムも効果的だが、管楽器郡と弦楽器群の対比も曖昧にしていないので、どんどん迫ってくる。巨匠は弦よりも管がものを言う指揮者だが、その特色は此処では満開で、聴いていると音の洪水に流されそうだ。勝利の後も正に晴れ晴れである。「Des Helden Friedenswerke (英雄の業績)」もワザとらしい表現ではなく、勢いで聴かせる。シュターツカペレ・ドレスデンの底力も相当なものだ。「Des Helden Weltflucht und Vollendung der Wissenschaft (英雄の隠遁と完成)」は、年老いた英雄の諦念が表され、英雄は田舎に隠棲し、自らの生涯を振り返っているのを表しているが、それが澄み切った境地を充分に表現しているが、まだ血気盛んに聴こえるのは当時の巨匠が、音楽的に如何に充実していたかが伺い知れる。だが実情は、ウィーンを追われた翌年であり、色々と難しい時代だった。その辺が関与していたかは不明だが、凝縮性の強い響きに苦悩や怒りを感じるのは此方の思い過ごしだろうか?英雄の死の表現に楽曲以上のものを感じるのもそれが為かとも思う。深読みのし過ぎかも知れぬが?聴き終えると清々しい疲労感を覚えるが改めて巨匠の全盛時の素晴らしさを知る一枚である。
2014.09.22 補足

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