小寺玉晁の記事を書いていて、『見世物雑志』に興味を惹かれ、ネットの古書を探していたら、新刊書で復刻版が出版されているのを見つけた。価格は 7,000円余りと高価だが、この際手に入れようと思い注文した。ネットの書籍の購入は実に便利で、大手のサイトは銀行決済をしてくれるし、送料も無料。頼んでから2日目には、宅配便で手元に届いた。(今回利用したのは、オンライン書店ビーケーワンというところだ)
『見世物雑志』郡司正勝・関山和夫編 三一書房 1991年刊(定価6,900円)早稲田大学図書館蔵本の復刻版。*なお『見世物雑志』は、『名古屋叢書第17巻』(昭和37年刊)にも所収されている。
小沢昭一が腰巻きのコピーを書いている。この本のエッセンスをよく伝えているので再録して置こう。
「口上」 小沢昭一
さァお立ちあい、『見世物雑志』は文政元年から天保十三年までの二十四年間、名古屋の、主として大須の清壽院、若宮神社の境内に出た、おびただしい種類の興行物の詳細を、絵にも写し取って記した、日本最初の見世物記録です。著者は小寺玉晁。尾張藩士で博学多才の人。彼のさまざまな見聞記録が写本で伝わっています。
なにしろ、本小屋、日小屋(晴天のみ開かれる)、広場の片隅、路傍などで行われる諸芸を、芸人の名前、出し物の説明、芸の様子、大方の評判、そして時にはウラ事情まで、要所要所は絵入りでで書きとめたのですから、この著者はすこぶるつきの“見世物オタク”だ。
ハイ、『見世物雑志』は研究者垂涎の資料であるばかりか、読み進むうちに、遙か江戸の昔のご開帳の雑踏にもまれつつ、掛小屋を次々に覗いて歩くというような、そんな楽しさをも十分に味あわせてくれるという、絢爛にして猥雑なる江戸のドキュメント。
ホラ、ざっとペラペラめくってみれば、
─辻能、歌舞伎芝居、人形あやつり、浄瑠璃、新内、角力、物真似・・・・「物真似」が実に盛んで、今日のテレビのものまねブームに負けません。コロッケもびっくりだ。
─手妻、曲手鞠、こま廻し、百眼(ひゃくまなこ)、七面相、八人芸、ちょんがれぶし、祭文説教、咄(はなし)興行、軍書講釈・・・・
東西の名人が往来しています。アヤシゲなのもまじっています。
─軽業、曲馬、力持、足芸、猿狂言、刀渡り、篭ぬけ、障子乗、住吉踊、のぞき眼鏡、おどけ開帳・・・・
ご開帳の場でご開帳のパロディをやるんです。イイ根性。
─菊人形、貝細工、ビードロ細工、篭細工、羽二重細工、水からくり、七面鏡、ぜんまい仕掛機械・・・・
細工ものの展示は後世の博覧会です。
─くじら、あしか、ラクダ、さんしょ魚、獏・・・・
珍獣への関心はやがて動物園ネ。
─人魚、天狗の子、ふたなりの馬、河童の干物、おらんだ眼鏡で見るノミやシラミ、熊娘、蛇娘、金玉娘、目玉を出す坊主、腹を凹ます天の岩戸、足で揚弓百発百中、ヘソで吸う煙草、女と熊の角力、それ吹けやれ吹け、みいれ駒・・・・
「それ吹け」は両国でも有名な好色見世物、おスキな方はご存知でしょう。「みいれ駒」はその上をゆく珍奇猥褻。ちょっと説明をはばかります。くわしく『見世物雑志』をお買上のうえ、お見とめられてご一覧だ。さァ、入らハイ 入らハイ・・・。
小寺玉晁の好奇心旺盛な覗き見精神は、今のこのブログを書いている私の姿に相通じるものがある。まだ記事にしていないが、朝日文左衛門の『鸚鵡篭中記』、高力種信の『金明録−猿猴庵日記』、細野要斎の『感興漫筆』の世界も似ている。野外研(野外活動研究会)の目指している「考現学」もつまるところこの旺盛な好奇心に支えられている。ただ、私の場合、何を覗き見し記録していくかという方向性が定まっていない。yamori氏が「名古屋学」講座を展開したいというようなことを最近述べられているが、そういう方向なのかなと漠然と思ってはいるが・・・・。

『見世物雑志』三一書房版

小寺玉晁自画像

人魚の干物

足芸

真剣刃渡りの芸

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