膝下の風景

2021/10/27 | 投稿者: Maysico


若き日、4年間にわたり都心のパン屋さんでアルバイトをしていた。
家族経営のお店。
有難いことに私は家族同様に温かく迎えられ、この家の子供たちの一番かわいい盛りの成長に立ち会うことができた。
数々の忘れえぬ思い出と、あんなに穏やかな気持ちと笑顔で過ごせた歳月はなかったかもしれない。
場所柄、時には芸能人や有名人も。育ちの良さが滲み出る方々もたくさん来店された。

働き始めて1年くらい経った頃だったか。
二軒隣に、一点モノ専門のブティックがオープンし、時折店のマダムがパンを買いに来てくださるようになった。
おそらく70歳近かったか、もっとだったかもしれない。
華奢な体型、華やかな顔立ちの異国の女性。
いつも豪華な宝石をまとい、よく似合う見事なお召し物と、マニュキア。いい香りの香水。
目元の皺などどうでもよくなるほど魅力的な笑顔、気風の良さ。
様々なことを乗り越えてきたであろう強さや大胆さ。したたかさ。
香港の方だったと記憶している。
ブティックで扱っている洋服は、あの頃の私にはオトナ過ぎたしお値段も高かったが、お世辞抜きでセンス抜群でよく売れていた。
いい時代だった。

私はこのマダムが大好きだった。
とりわけ、マダムの美しい膝下が。
まっすぐで細くて膝頭が小さくて。
そしてその足をのせるピンヒールの趣味の良さったら!
「そのヒール、マダムに履かれるためにある!」ってくらいお見事。

マダムの膝下には、確かに大陸の大地を歩いてきた民族の歴史を感じる逞しさがあった。
腰高に軽やかに歩きつつ、そこに刻まれてきた悠久の時間(とき)を感じてしまうのだ。
もしかしたら、そんなことも品位というのかもしれない。
天晴れで素敵な女性だった。
あんな風に歳を重ねることができるなら、老いていくのも悪くない。




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