米沢穂信の
〈古典部〉シリーズの6冊目『
いまさら翼といわれても』を読んだ流れで、3冊目の『
クドリャフカの順番』に続き、2冊目の『
愚者のエンドロール』も再読して見た。
初読の時よりも面白く感じました。(^o^)
〈古典部〉シリーズの2冊目『
愚者のエンドロール』は、『
氷菓』アニメ版の8〜11話の内容にあたります。
『氷菓』アニメ版の本放送の時点では、個人的にはまだ原作未読でしたので、この8〜11話が割と難解でした。
でも原作を読んだ後に改めて観直してみたら、少なくとも個人的には物凄く面白かったよ。
(同じことは『氷菓』アニメ版12〜17話の『クドリャフカの順番』に該当する箇所にも言えるコトでもあります。)
当ブログではシリーズ2冊目『
愚者のエンドロール』そのものについては、今まで単体では触れたことが無かったので、この機会にごく個人的な感想等を少々。
以下、ネタバレあり。注意!!
地元の県立高校のとあるクラス(2年F組)が、文化祭上映用の自主制作ミステリー映画を夏休み中に完成させようとする物語。


“女帝”入須冬実や天文部の
沢木口美崎はこの巻からの登場であります。
(沢木口美崎は、名前だけなら1冊目の『氷菓』からの登場)
古典部の4人(ナカンズく
折木奉太郎)が上級生2年F組の自主制作映画作りに巻き込まれる、と言うか、体よく利用されてしまうミステリー。
後に
里志が名付ける所の“
『女帝』事件”の全容であります。
ハルヒシリーズで言うと『涼宮ハルヒの溜息』の辺りに相当するのかと?
入須に担がれ利用された奉太郎は、その気になって乗り出して、見事に推理をハズします。
奉太郎の味わった敗北感は深いのですが、その直後には正解にも辿り着いております。
奉太郎は義理も恩も全く何も無い2年F組の上級生たちの窮地を救うために働き、2年F組の面々を誰も不幸にさせることなく救っております。
ごく個人的な感想としては、“女帝”入須冬実については「割と不器用な女だなぁ」と感ぜずにはいられませんでした。
でも入須の立場に立てば、“女帝”が“女帝”であり続けるためには、「アタシのせいじゃないでしょ。そんなの知らないわよ」とは、言えなかったんだろーなぁ、と。
入須は日数の限られた中で、避暑から帰ったその日のうちに、状況を知らされたその日のうちに、事態の収拾に乗り出します。
現場の独走によって脚本が破綻し、制作が暗礁に乗り上げたまま期限が迫る状況です。
・・・取り敢えず入須の手元には本来の
本郷案の脚本の他に、3つの代案があります。
中城 案、
羽場 案、
沢木口 案、の3つです。
そこにギリギリのタイミングで
折木 案 が飛び出します。
以下、各々の代案の詳細を少々。
中城順哉 案 『
古丘廃村殺人事件』
窓のシーンの録り直しの他に、夏草の刈り込みが必要かと。
撮影現場にはあと1日しか行けないので、時間的には殆どムリでせう。


個人的にはドラマは割と良いと思う。
ベタ過ぎな中城案って、おいら割りと好きかも。(^^ゞ
羽場智博 案 『
不可視の侵入』
窓のシーンさえ録り直せば、元の本郷案とはトリックでの辻褄が合います。でも、それだけです。ドラマが全く抜け落ちです。
中城案でドラマを埋めるにしても、元の本郷案のメロウなドラマを越える面白い脚本を、入須がいま確保している一年生に書けるか否か?は今一つ不安かも。
もし仮に面白いドラマの脚本が仕上がったとしても、シロート役者の演技力には荷が重そう・・・。
それはともかく、羽場はあまりにも承認欲求が強すぎて、個人的にはドン引きっス〜。(- -;)
沢木口美崎 案 『
Bloody Beast』
血糊さえ充分に用意できれば、窓のシーンの録り直しすらも要りません。
ノックスもヘッタクレもありゃしませんが、3つの代案の中では最も実際的かも?
脚本や演技力の難易度も高くはならずに済みそうだし、取り敢えずは無難に(?)完成できる見込みは高そうかと。^^;
沢木口はダチに欲しいタイプだけど、あの感性について行くのは大変そお。^^;
折木奉太郎 案 『
万人の死角』
おだてて担いでその気にさせて、茶まで奢った甲斐もあってか、タイムアップの直前で“瓢箪から駒”のように折木案が入須の前に飛び出します。
血糊の追加も窓の録り直しも要らないし、シナリオや演技力の難易度も高くはならずに済みそう。中城案や沢木口案にも通じる派手さやケレンミも期待できそうです。
「別にいいでしょう、謎ぐらい」と折木君が言うのだから、「別にいいでしょう、ザイルぐらい」ということなのでしょう。
“正解”の本郷案とは全く違う、似ても似つかぬ“別解”ですが、コレこそが入須の求めて辿り着けなかった“別解”だったのかも!?
入須の打算タイム
が奉太郎には永いのであります。(^^)
本郷真由 案 『
ミステリー (仮称)』
本来の元の“正解”ではありますが、小道具班の頑張り過ぎで論理破綻を来たします。
ガンダム逆シャアに喩えて言うと(ガンヲタでスミマセン)、「お前らの頑張り過ぎ」でアクシズの後ろ半分が落ちる感じ?
しかしながら、そーでなくても本郷案は入須的には元々「難アリ」でボツだったのかも?
本郷もダチに欲しいタイプだけど、ズボラなおいらでは友情が保てないだろーなぁ、と。orz
おいらが入須の立場で折木案が無いとしたら、沢木口案の採用を強行して反対意見は押し切ると思います
、多分。
中城案では夏草を刈り終える頃には日が暮れそーだし、羽場案では脚本と演技力の難易度がシロートの高校生には厳しそーだからです。
でも『
古丘廃村殺人事件』ってゆータイトルはベタで好き。『
万人の死角』のサブタイトルにしても良いくらいだと感じるっス。
おいら中城とはダチになれそうな気がするっス。(^^ゞ
古典部の面々のそれぞれの指摘によって、自分が体よく担がれ利用されていたことを悟った奉太郎は、入須の真意を糾します。
能力はあるのに了見の狭い奉太郎に失望を感じるとともに、その奉太郎に図星を突かれた入須は、思わず冷たくあしらってしまったのだとも思えました。
能力はあるのに自分一人のことしか見えていない奉太郎の視野の狭さに失望や怒りも感じたのではないでしょうか?
“補欠”の話は必ずしも『ご冗談』でも『嘘』でもなくて、恐らくは過去の入須自身(或いは身近な誰か)のことでもあるのではないか?とも感じます。
入須にとっては奉太郎はまだまだ未熟な後輩ではありますが、恩や借りのある相手でもあります。
奉太郎は謎解きの面では限られた期限内で入須が接触できた最も有能な人材だったこと、2年F組の企画が奉太郎の謎解きによって救われたこと、自分自身も追い詰められていたこと、等々を正直に打ち明けて諭すべきだったのではないか?と感じます。
それをあんな言い方では、
折木姉弟から疎まれるのは道理だと思います。
勘のいい奉太郎に本郷案の問題点をこれ以上は悟らせないためにも、虚勢を張ってしまったようにも思えます。
不器用にも感じます。(^^)
入須自身は決して“女帝”と周囲から呼ばれるほどには器用ではないように思えます。
周囲からの“女帝”の期待に応えようと懸命に努力している“普通の人”なのだと思います。懸命な分だけ人使いも荒いのかも?
入須にしてみれば、折木姉弟の方がよっほど特別な能力があるようにも見えるのではないでしょうか。
周囲から期待される“女帝”の立場を保ち続けるのは、実は割と大変なのかも。
少し気の毒にも感じてしまいました。^^;
本郷真由は2年F組では、“マンガを描いたコトがある”という理由なだけで、書いたコトも無い“ミステリーの脚本”を他薦によって書かされます。


漫研部員でもある
伊原がその話を聞いて抗議の声を上げるのは、個人的には物凄くよく解ります。別にマンガを趣味で描いたからって、必ずしも何でも出来るって訳ではないからです。
千反田さんが一貫して気にかけ続けて来た全く登場しない登場人物・本郷真由こそが、この物語の真のヒロインだったのかも?
アニメ版『氷菓』第10話『
万人の死角』の終盤にある、中城が奉太郎を労っている試写会後の引きのシーン。
奉太郎の顔を見ながらカメラ前を横切る後ろ姿の女子生徒は、もしかしてあの後ろ姿が本郷真由?
江波倉子とは髪色や毛足が微妙に異なる気も。気のせえ?
あのカメラ前をモブが横切るカットは、作画の手間ヒマを考えると、別に無くても良いカットだとも思えます。
そんなカットを敢えてわざわざ手間ヒマかけて入れたというコトは、ひょっとしたら、そーいう意味なのでせうか? ・・・考え過ぎ?

この後姿の女子は、ひょっとするのでせうか? 何となく気になります。
あれから『シャーロック・ホームズ』シリーズの短編だけは延原訳で一通り読んで見た。(『冒険』,『思い出』,『帰還』,『挨拶』,『事件簿』,『叡智』の6冊)
個人的には『黄色い顔』が最も印象的でした。昔の夫も今の夫も、男の中の男であります。
最悪の事態を恐れたホームズは、力み過ぎて推理が悉くハズれます。(まるで小道具班の作った海藤の腕のよう。或いは、別解を正解と思い込んだ奉太郎のよう。)
本郷好みの短編かと思います。『黄色い顔』は本郷的には『 ◎ 』なのではないでしょうか。
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