つい先日 忙中閑あり で何日か手空き期間があったので前から読みたかった『
アンの娘リラ』を読みました。圧倒されました。
おいらは『赤毛のアン』シリーズでは『アンをめぐる人々』と『虹の谷のアン』については未読ですが、本屋でたまたま『リラ』を見つけたので“即買い”でした。
この本は『赤毛のアン』シリーズの最終巻で
アンの末娘リラの
第一次世界大戦下の物語であります。
第一次世界大戦を描いた小説って、そー言えば二次大戦ものに比べて少ないよーな気がします。おいらは『チップス先生さようなら』やカフカの『変身』を読んだことがあるくらいかなぁ。
個人的にもこの『
アンの娘リラ』ほど第一次世界大戦を直接的重点的に描いた小説に行き当たったのは初めてでした。
カナダは戦勝国である上に戦場からも遥か遠く離れており、銃後の女性達の視点から描いているからこそ、第一次世界大戦をこれだけストレートに扱えたんだと思います。辛い話ながらも戦勝国ならではの高揚感もわずかばかりですがあるように感じます。

軍国主義を滅ぼす為なら、それこそ地球の裏側にだって自分たちの大切な家族を兵士として送り出すような彼らの勢いと言うかメンタリティーもこの作品からは感じ取れました。
(日本人的には彼らのこうした気質を決して忘れてはいけないような気がします。軍国主義に陥れば、日本は彼らのような国々や人々に再び国を滅ぼされかねないのではないか? とも思えるからです。)
しかし戦地から遠く離れた戦勝国ののどかな田舎の銃後の話とは言え、この物語は不安と苦渋にも満ちております。
アン・シャーリーとは1世代しか違わないのに、のどかで平和だった『赤毛のアン』の世界とはまるで別の世界です。そのこと自体はアン自身が作中でも嘆いております。
以下少々
ネタバレを含みますのでまだ内容を知りたくない人は
スルーして下さい。
オーストリア皇太子の暗殺を知らせる新聞をのどかな田舎町で開いている所から物語は始まります。その後の大戦中の4年間の欧州や中東の戦況が刻々とアンの家族のもとにも知らされて来ます。
当時の国際情勢も作中人物達によって詳しく論評されており、
カイゼル、
ウィルソン、
ロイド・ジョージ、
ヒンデンブルグ、
レーニン等の様々な名前も出て来ます。
作中の登場人物達も大勢志願して行きます。子供がみんな志願してしまった母親もいます。
ある者はフランスで埋葬され、ある者は行方不明になり、またある者は捕虜となり、ある家の子供は目を失い、ある女性の恋人は足をなくし、
ダイアナの子供は重傷を負い、大きな戦傷もなく生きて帰った者達もみな以前とは変わってしまいます。
代償のあまりに大きな勝利が描かれております。
この作品は広く薦めたい本ですが、シリーズもの共通の弱点として、前作に当たる作品を予め読んでいないと面白さが充分に汲み取れない所もあるかも知れません。
少なくても『
赤毛のアン』と『
アンの青春』、『
アンの愛情』、『
アンの夢の家』の辺りを予めおさえていることが前提ですが、個人的には超お薦め。(それらの前作を読んでないとしても普通にお薦め)
少女小説のつもりで読んだら、意外に重厚で“読み応えあり”でした。





「戦争なんか、あたしは女だから関係ない。男が勝手に死ねばいい。」と言う意見も世の中には一部あるようですが、決して関係ない筈がないと思います。
「男が勝手に始めた戦争にいちいち女を巻き込むな」と言う気持ちは察しますが、決して「関係ない」では済まされないと思います。また、それが権力なんだと思います。
もちろん戦争など日本人にとっては永遠に無縁であるべきだとおいらは考えますが、
今日の世の中の右傾化傾向(或いは
軍国回帰の傾向)を考えると、悲しいことですがこの物語は「決して他人事とは言い切れないのだろう」とも思えてしまいます。
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