Polydor Japan MG 8194/7 (2711 017) 4LP
ブラームスの交響曲第3番は、ウィーン・フィルで、1883年12月2日にハンス・リヒターの指揮で初演をされているので、その楽団とは縁が深いが、巨匠も同楽団とは縁が深く、この組み合わせで録音をしているのは、実にファンにとっては、とても有り難い事だ。然もこの交響曲も1953年に英.DECCAに残した録音があるので、それと比較しながら聴くのも良いだろう。旧盤もモノーラルとしては、同社自慢のffrrの効果もあって、当時のウィーン・フィルの美音が引き立った。だが録音バランスは、弦主体だった事から「管楽器がものを言う」巨匠の実演の印象からは程遠いものだった。それでも造型は引き締まっており、この交響曲が如何なるのものかを適切に表現をしていた。それから23年後に録音をしたのが、この1976年のものだ。楽団も同じだ。なのでその年月の経過は「何処に変化があるのか?」と思いながら針を降ろす。第1楽章冒頭は、やはり管がものを言っている。そこが素晴らしいのだが、そこに覆い被さる弦楽器のセクションもなんと充実をしている事か?既に巨匠の気持ちも高揚をしているが、低弦部のがっしりとした骨太の響きは「音楽は造型」と常々提言していた巨匠の音楽の特色を表している。此処まで聴いていると旧盤と比べて随分とウィーン・フィルの響きが機能的になっているのが聴き取れるが、それこそが古老の音楽ファンからシャルクやワルターの頃が良かったと言われる所以なのかと思った。(今更だが?)それでも現在のこの楽団からは聴けない優美な音色(貴族的だと形容したい位の)は最高だ。展開部が鋭角的な響きにならないのも、巨匠がウィーン・フィルの特色を活かしているからだろう。だから第2楽章(Andante)も素朴の極意だが、流麗で奥行きのある深々とした音楽も説得力がある。情熱の籠った素晴らしい演奏だ。しかしながら些かグローバルな音楽造りになっている。そして第3楽章は、下手をすると御涙頂戴的な演奏となるのだが、流石に巨匠は、節度が在り、品性も保たれている。所謂、浪漫的な色合いとは一線を慨する。線が一本通った凛とした印象がある。感傷的な演奏が嫌いな人には丁度良いだろう。とても見通しも良いが、現代の演奏にはない哲学的な響きがする。呼吸も深くなっている。だが旧盤と比べると平坦に聴こえる。さて終楽章は、質実剛健な造型が功を奏しているのだが、暗雲が立ち込めるような雰囲気を持つ冒頭は、もう少し雰囲気があってもと思うのだが、そこがきっぱりと割り切られているのは巨匠の音楽性故か?第2主題はハ長調だが、次々と転調を繰り返し闘争的な展開部は解放されており、その頂点で入る再現部は圧巻だ。聴いていると録音時の巨匠のコンディションは余程良かったのだろう。細かい旋律も神経質にならずにデリカシーを感じる。終止部は、夕映えの空を見る風情がある。此処で総評だが、意外とこの演奏は彫りが浅い。造型は、いつもながらの質実剛健だが、ウィーン・フィルの流麗な音色に流された印象もあり、聴いているうちは良いが、聴き終わると、どんな演奏だったか後で語るには今ひとつてな感じがする。それでも現在聴ける演奏よりは呼吸が深い。

3