「伝説の1975年公演を聴き直す。続編 Part.2」
伝説の1975年公演
Polydor Japan 92MG 0752/5 4LP 1984
2枚目である。此処には、リハーサル風景も放送されたストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」組曲とベートーヴェンのレオノーレ第3番、R・ワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲が収録されている。ところが、この「火の鳥」だが、意外と其の演奏に対する印象が薄い!ベートーヴェンは、ともかくとしてブラームスの第1交響曲やシューベルトのグレイト交響曲の演奏が強烈だったので、余計に印象が薄かったのかも知れないが、最近、また関心を持ったのは、以前に録画した1977年公演のベートーヴェンが放送された際の中に其のストラヴィンスキーのリハーサル風景が在り、久々に観たのが要因である。其処では実に細かいリハをやっているが、どんな音をも聞き逃さず、即座に指示を与える姿勢に関心したからである。リズムに関してもそうだが、指摘は、とても厳しく、観ている方も疲労感さえ覚える圧倒感が在った!其れで本番演奏は、果たしてどんなものだったかと気に成ったと言う事である。このレコードも久々に針を降ろす。「火の鳥」組曲は、3月22日の演奏である。序奏は、くすんだ響きだが、ズンとくる重量級のもの!木管が辺りを見わまる様な処は印象に残る。火の鳥と其の踊りは、とてもシャープな表現で、是ならウィーンフィルでも在りかなと思う様な演奏!其れは、火の鳥のヴァリアシオンも同様だが、王女達のロンドは、良い意味での渋い感じが良い情感を醸し出している。高弦の優美な音色に惹かれる。カッチェイ王の魔の踊りのリズムの切れは快調で、リハの際に煩い程、拘ってやっていた理由が解る。金管の荒々しさも凄いが、時折入るフォルテシモは爆発する程の衝撃が走る。そして豪快でも在る。録音は良好だが、もう少しシャープに音が捉えられていたらと惜しまれる。子守唄は、妖艶で気だるいが突き刺さる様な鋭敏な音の遊戯が独拠系の曲を振っている巨匠からは想像も付かない!終曲は、雲が次第に晴れて優しく日差しが差し込む感じが、とても良い!金管の強奏も素晴らしく輝かしく曲は終わる。確か、この曲は、巨匠の十八番物で古い実況録音でも在った筈である。B面は、マイスタージンガー第1幕前奏曲から始まる。是は、3月19日のアンコールである。流石に冒頭から高揚した雰囲気が伝わる。テンポは、幾らかゆっくり目だが、停滞感は無く、豊かな音楽が鳴り響く!オケの音は、此処でも重量級だが、其の男性的な引き締まったダイナミックな響きを聴いていると巨匠の全盛期をも彷彿とさせて聴いていても胸が高鳴る様だ!チューバの強奏も素晴らしく、是は、スタジオ録音では聴けない響きである。各ライトモティーフも雄弁だ!この演奏だけでも巨匠の存在感は強烈に伝わる。終止部では、思わず聴いている方も拍手をしたくなる。レオノーレ序曲第3番は、3月22日の最初の曲のせいか序奏部は、緊張している感じが伝わる。演奏が進むと徐々に緊張がほぐれる感じだ!そして少しずつ表情が晴れやかに成って来るのが良い!荒削りな響きが如何にもベートーヴェンらしい!主部に成ると和んで来るのか木管が、暖かい音色で魅了させてくれる。最近、こんなベートヴェンは、本当に聴けなくなった!終止部は力強く熱狂的だ!聴き終わって感じた事だが、ベルリンフィルは、カラヤン時代にドイツ的な色合いを消したので、現在でも近代オケとしての面目を保っているが、伝統を重んじていた筈のウィーンフィルが、時代の流れに負けて特有の色合いを持った音色が薄れてきたのは、とても残念である。やはり伝統は、残してほしいものである。

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