Polydor Japan MG1178 (2531 078) LP
巨匠は、英国楽壇にも縁が在り、ロンドン交響楽団の桂冠指揮者で在った事も知られているが、その桂冠指揮者就任の記念にチャイコフスキーの交響曲を3曲、独.DGGに録音している。初めて、其のニュースが伝えられた時にファンは、老匠も遂にヤキが回ったかと思った人も中には居た様で、当時の音楽専門誌を読んでも批評家達が珍しがっていた事を思い出す。だが過去の例を見ても解る様に独境系の指揮者は、以前からチャイコフスキーの交響曲を好んで演奏しており、フルトヴェングラーとて十八番の曲が在ったり、カラヤンやヴァントも演奏会で取り上げており、正規な録音も在るので別段珍しい事でも無い!この録音が奇異に感じられたのは、巨匠と言えば、やはりモーツァルトやR・シュトラウスのスペシャリストとしての印象が強かったが故の事だったと思う!特に第4番は、巨匠の十八番で、1971年のザルツブルク音楽祭でもチェコフィルと共に演奏している。得てして固定概念とは、そう言う事である。さて、此処からレコードの感想を述べるが、収録は、1977.12.13〜14、ロンドン・ウォルサムストウ・タウンホールで行われた。是も久々に針を降ろす。他の作曲家の作品のレコード程、聴いていないので盤面は、特に問題は無い!ロンドン交響楽団と言えば、録音当時は、ジョン・ウィリアムスが、映画「スター・ウォーズ」の映画音楽収録に利用したり、とにかくダイナミックな表現が仕事上要求された時期だけに音色にも影響が在ったと判断しても良い位の豊麗な音色が特色として現れる。特に金管楽器のセクションに其れが現れており、神秘性を感じる木管と共に楽団も一つの転換期に差し掛かっていたと言えるだろう!弦楽器群のシルキーな音色も「スター・ウォーズ」で聴けたアノ音色である。そう言えば、同時期には、EMIで、オイゲン・ヨッフムによるベートーヴェン交響曲全集も進行していた。尚、DECCAには、ショルティが、ホルストの惑星も録音していた。だからこのレコードを聴き終わった後に「スター・ウォーズ」なんぞを聴くと思わず成る程と感心したものである。だからと言うのでは無いが、第1楽章冒頭のファンファーレは、本当に輝かしく響く、だが巨匠の造型感は正しく独境系の其れであり、質実剛健でも在る訳だが、此処での巨匠は、余程ノッていたのかアコーギクが意外と自在である。音の強弱でもかなり遊んでいる処も在って聴いていて、とても面白い!特にフォルテシモを効果的にする為、わざとにピアニシモを極端に音量を落として強烈なクレッシェンドにするとかやりたい放題である。冒頭のファンファーレの後のスピードピアノは、何度聴いてもびっくりする程である。其れは、終止部近くのアッチェレランドにも言える事だ!最後には大見得も切って終わる。初めて聴く人は、とても意外に感じる事だろう!第2楽章は、最も巨匠らしさの出た演奏と言えると思う!勿論、テンポの動きも在るのだが、まるで息をする様にテンポが動くので、即興的な一面も在るのかなと思う!其れでも過度な表現には成っていない!木管の生かし方が美しい!金管も輝かしいが、品性を保っているのでデリカシーも在る。やはりオーストリア人から見たチャイコフスキーと言う感じだ!何となく渋い音色が、其れを助長している。第3楽章は、リズムに気を使った繊細な表現である。弾む程では無いものの軽快である。此処でも木管の優秀な点が光る。終楽章は、流石に巨匠だけに煌びやかで派手な音色を求める事が出来ない代わりに重量級の迫力を堪能出来る。正にドスン、ドスンと響く!まるでブラームスでも連想させるものが在るが、其れでも遊び心は忘れない様である。細かく聴くと此処でも第1楽章で先に述べた事が、其のまま当て嵌まる。それにしてもロンドン交響楽団の対応力は凄い!巨匠の意図を正確に読み取って必死に尽いて行く!斯くも巨匠ならではのチャイコフスキーを見事に再現したと言っても過言では在るまい!是は、散々この曲を聴いて、聴き飽きた人向けの演奏だ!尚、この演奏に関しては、充実度が足りないとの意見も在るが、何度もレコードとして聴くので在れば、面白い演奏だと思う!

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