DGG 251 373 France 1982 LP
レコード・ジャケットの表記が見慣れないが、それはドイツ語のウムラウトは仏語には無いからである。これはフランス盤だ。それで巨匠の名前がKARL・BOEHMと表記されている。このレコードは追悼盤として発売されたが、カップリングした曲が国内盤とは異なる。ちなみにドイツ盤も同じカップリングである。国内盤ではモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の再録とカップリングされていた。尚、裏面の第5番に関しては既に紹介しているので割愛する。確か巨匠のシューベルトの第8(7)交響曲の公式録音としては、1940年のHMVのものを初めとして3つしか無い筈だ。これも後から発売されたものだが、やはり巨匠の実況盤はスタジオ録音のものとは一味違う。これは、1977年の6月19日にオーストリアのフォアアールベルク州ホーエンエムス市で行われたシューベルティアーデ音楽祭での演奏会の放送音源からレコード化されたものである。会場は、聖カール・ボロメウス教会だった。残念なのは、この後に演奏されたグレイト事第9(8)交響曲が公式音源からCD化されていない事だが無いものねだりをしたところで何も始まらないので、このレコードの感想を述べよう。序奏は沈み込むように始まる。それもとても重厚だ。少しも力んでいないのに背後に広がる緊張感は正に巨匠ならではだろう。凛としたキッパリとした造型についてもそれは言える。テンポは非常に遅い。主部も素晴らしいが、このテンポでよく保つものだと感心する。演奏のダイナミックレンジも広く立体的で奥行きが在る。楽団はウィーンフィルだが、弦よりも管がものを言うのでフォルテは荒々しい。骨太の男性的なシューベルトだ。終始部も重厚で押し潰されそうだ。続く第2楽章も素朴である。純度の高い透明感が印象的だが、此処でも前の楽章と同じ事が言える。フォルテの響きは厳しい。ひしひしと迫る悲劇と天衣無縫な世界観が交差する。久々に聴いたら暫く音楽が聴けない程の衝動を受けた。裏面の5番は天使が舞うように美しい。此処で結局「聴いているじゃないか!」なんてツッコミは無用である。

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