Toshiba EMI EAC-40220 LP 1982
巨匠とR・シュトラウスの繋がりは、ザクセン(現.ドレスデン)国立歌劇場での総音楽監督だった時代よりも前のハンブルク国立歌劇場の頃にまでに遡るのだが、R・シュトラウス自身も巨匠に宛てた遺言文では「おおいなる友よ」から始まる位なのだから相当なものなのだろう。因みに1934年には作曲家、70歳誕生記念の「薔薇の騎士」第200回記念公演も指揮しており、1935年の「無口な女」や、1939年には「ダフネ」の世界初演をしている。尚、「ダフネ」は、R・シュトラウスから献呈をされた程だ。更に作曲家80歳誕生記念でもタクトを振っている。これは、ウィーン国立歌劇場で総監督を務めていた時の事だ。巨匠の極度に無駄を省いた簡素な指揮振りは、R・シュトラウスの影響を多大に受けたとされるが演奏をするのは演奏家なのだから当たり前なんだと感じさせる程に不恰好だが、久々に1975年に来日した時の映像を見ると本当に懐かしい。だが思い出話は、これ位にしておこう。幸いザクセン時代にもそれなりの録音があるので此処でも紹介をしよう。「薔薇の騎士」"第三幕のワルツ"は別項で紹介しているので割愛するが、それでも興味深いものがある。これは「ベーム・イン・ドレスデン」の国内盤で、然も分販されたものだが、復刻は上々で音質も充分である。最初に「ティル・オイゲンシュピューゲルの愉快な悪戯」から聴いてみるが、収録年が1940年と言う事もあり、より鮮明で柔らかい音色に惹かれる。冒頭の語り始めはそんな感じだ。ティルの動機も表情が豊かだが、それは人物や情景描写も同様だ。音楽も終始弾んでいて面白いので聴いているとあまり録音の古さも然程気にならなくなる位だ。この楽曲ならではの物語性も解りやすく、私見では後年に独.DGGで、ベルリン・フィルと再録した演奏よりは遥かに良いと思う。断頭台での最後の悪足掻きまで愉快だ。しかし表現が荒いのは御愛嬌か?これから先の曲は、1938年の収録である。次は「サロメ」の"七つのヴェールの踊り"だが、危機迫る緊迫した曲想なので当然荒くなるのは仕方ないとしても編成が大きくなる箇所での統率が今ひとつで物足りなさが先に立つ。だが弱音部では細部に拘っているのが佳く解る演奏だ。ドラマティックな曲だけに表情がアンサンブルまで間に合わなかった印象がある。そして終わりに「ドン・ファン」だが、勇猛果敢な冒頭の主題も単に勢いだけで突っ走った処があり、それならもう少し求心性を求めたいと思ってしまう。だが聴き進んで行くと「これぞリヒャルト」と思わせるオーケストレーションの妙が絶妙に再現されているのが解る。此処でも細部の描写に拘っているのが聴き取れる。聴き終って感じた事だが、巨匠特有の質実剛健な造形美は、この時代から健在なので多少の荒さや表現上の不統一があっても構成として成り立っているのには感心する。だからこそ巨匠と言えるのだろう。

2