HARDY CLASSIC HCA-6004-2 3CD 1999
ナポリ、サンカルロ歌劇場の実況盤である。収録は、1950年とある。嘗て前年公演で、マックス・ローレンツがタンホイザーを演じた盤が在ったが、ここでは、ハンス・バイラーが歌っている。そしてエリザベートがレナータ・テバルディと言う、やや異色な取り合わせである。これは、ドレスデン版による上演だ!何と無く序曲から温和なアンサンブルが聞き取れるが、これで精一杯と言う感じがする。録音状態は、ドイツやウィーンの放送局の音源と違い、余り水準が高くないのが残念だが、当時の年代相応と思って聴けば問題は無い!変な歪みも無く聴く事が出来る。序曲は中々立派な演奏を聴かせる。破線が無いのは巨匠の統率が如何にしっかりしてるかが解かる。終わると凄い喝采を浴びるが、イタオペでも観ている様な観客の反応が面白い!
幕が開くとイタリア語なので一瞬、アレッ!と思うが当時は、日本でも原語上演は少ないので仕方在るまい!だからヴェーヌスもエリザベートもイタリア語である。しかし振っているのが巨匠なので言葉の壁を越えてドイツの響きがする。歌劇が庶民に浸透してる土地なので、歌手達も破線無く歌っているのに感心するが、この時代に他国でそれ以上の事を言うのは酷であろう!ハンス・バイラーは、ドイツ語で歌っている。ここでのバイラーは素晴らしい!後にカラヤンがウィーン国立歌劇場で上演(1963)した同役では、呼吸が続かない苦しい歌唱であったが、ここでは問題は無い!これは単純に年齢のせいであろう!第2幕冒頭のアリアだが、テバルディは流石に若く伸びの在る声は素敵である。巨匠の熱気溢れる指揮振りと共に歌合戦も充実している。例の入場の合唱も見事なものである。しかしティンパニー奏者が戸惑いながら叩くリズムが、やや不安定だが仕方在るまい!合唱も最初は少し弱い感じがする。どうも演奏しながら手堪えを感じて進んでいる印象も受ける。どんどん熱を帯びてくるのもそう言う事だろう!第3幕である。前奏曲を聴いていると、よくまあ、ここまで来れたものだと感心するが、それは巨匠も同じ気持ちだったに違いない!しかし金管のピッチは相変わらずキツイ!
祈りのアリアを歌うテバルディは、ここでも良い!これならドイツ語でも大丈夫だったんじゃないか?と思われる程、快調である。次は、夕星の歌である。ヴォルフラムは、カルロ・タリアブエだが、イタリア語でも説得力のある名唱だ!この人もドイツ語で聴きたかった。それは言葉の違いをも乗り越えているからである。さてローマ語りだ!バイラーも何とか持ち堪えて快調である。そして合唱団も最後は皆渾然一体となって圧倒的なフィナーレを迎える。聴き終えて、巨匠に正規の同曲全曲録音が無いのは、やはり残念な思いが残る。

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