DGG Japan SMH-1038/9 2LP
巨匠がレコード用に録音した教会(宗教)音楽は、精々モーツァルト位なものだが、後は何が在るかも即座に浮かばない程なので、これから紹介するレコードも印象が薄いのかも知れない。特にベートーヴェンの「荘厳ミサ曲」に至っては、後の再録も在るので尚更だろう。それ程、この旧録の印象は薄い。収録は、1955年に西ドイツは、ダーレムにあるイエス・キリスト教会で行われている。然もモノラル録音だ。独唱者は、マリア・シュターダー(S).マリアンナ・ラデフ(A).アントン・デルモーター(T).ヨーゼフ・グラインドル(B)の面々、楽団は、ベルリンフィル、合唱は、聖ヘドヴィッヒ大聖堂聖歌隊だが、難解な極めてドイツ色の強い演奏で、私も初めて聴いた時は、とても取っ付き辛く降参してしまった。それに質実剛健な巨匠の音楽性がストレートに出た演奏なので、とても堅苦しい。だから決して流麗では無く、外的にも磨かれる事も無い。どちらかと言えば地味な演奏である。だが、その代わり密度は深く重厚で正に荘厳である。それは、キリエから実感出来るが厳粛そのものである。響きも重たいので、より助長される。久々に聴くと不思議と以前に感じた居心地の悪さは無いが、こんなドイツ的なベートーヴェンも今では、そう聴けないなと思った。独唱者も演奏の雰囲気に声の色合いも合っており、合唱団の力強さも素晴らしい。グローリアが特にそうだが、この曲は、第九と双生児的な存在と言われているので、作曲した年代も影響が在るのだろう。然も第8交響曲と第九の間に位置する曲なので、第九が世俗的交響曲なら、こちらは宗教的交響曲とも言える規模だ。それは、独唱入りで合唱付なので尚の事だが、ベートーヴェン自身も最も完成された作品と自己評価していた。「我らを憐み給え」と歌う合唱は壮大である。歌手は、マリア・シュターダーが良く、ヨーゼフ・グラインドルの存在感も立派そのものだ。クレドも荘厳そのものである。聴いていると背筋が伸びる。素直で真っ直ぐな姿勢に思わず感動してしまう。サンクトゥスの冒頭も厚い低弦部と共に独唱が続き、重厚だが暖かい響きが印象的だ。合唱が加わると更に壮大になる。ヴァイオリンの独奏も素晴らしいが、アニュス・デイの厳格な進行も良い。マリアンナ・ラデフが見事な歌唱を聴かせる。それにしても終曲の澄み切った境地できっぱりと終わる荘厳な響きは、巨匠の全盛期とは、こう言うものかと思う。だが初めてこの曲を聴きたい人には向かない演奏だろう。尚演奏とは関係のない事だが、擬似ステレオ化も巧く処理出来ていて音質も良いので聴き易い。聴き直すと色々な発見も在るものだ。やはり音楽は聴き手の年輪には影響をするものだ。
2011.4.16 より改正

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